まったくこの人は、どこまでその粋でディープな音楽センスを見せつければ気が済むのだろう。トム・ミッシュによる新プロジェクト=スーパーシャイによる初のアルバム『ハッピー・ミュージック』が、デジタルリリースに続いて晴れてフィジカル化(CD/LP)された。
スーパーシャイは2022年春のデジタルシングル“ハッピー・ミュージック/サムシング・オン・マイ・マインド”以降、トム・ミッシュ名義の活動と並行して次々と楽曲を発表してきたダンスミュージック特化プロジェクトであり、アルバム『ハッピー・ミュージック』に先駆けて届けられた“フィール・ライク・メイキン・ラブ”は、ロバータ・フラックによる同名ヒットをサンプリング/フィルターハウス風に再解釈した素晴らしい楽曲だ。
これまでにも、その卓越したギタープレイと美しい歌を軸にしたトム・ミッシュの有機的な音楽性には、クラブジャズやネオソウル、ヒップホップ、ハウスにUKガラージなど、陶酔感溢れるダンスミュージックからの影響が感じられていた。ロックダウン下でライブ活動がままならない期間、トムはあらためてダンスミュージックの魅力とプロダクションの可能性に向き合い、新たな活動の糸口を見つけたのだという。
『ハッピー・ミュージック』ではプログラミングのみならず、ドラムスやベースやキーボード演奏も自ら行なっているが、ギター演奏は素朴なリフ(サンプリングだろうか)以外はまったくと言っていいほどフィーチャーされていない。最大の得意技を封じてなお上質なクオリティを維持しているところに、トムの静かな情熱と気骨を受け止めることができるだろう。
華やかなシンセディスコからジャジーなディープハウス、エッジーなブレイクビーツと、エレクトロニックな作風に振り切れてなお独自の美意識を貫いてみせた『ハッピー・ミュージック』。ジョーダン・ラカイ(Vo)やカイディ・アキンニビ(Sax)といった気心の知れたコラボレーターも迎えられた本作は、パンデミックの反動から生まれたトム・ミッシュのもうひとつの顔であり、新たな達成である。ぜひこの名義での来日にも期待したい。 (小池宏和)
スーパーシャイの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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