笑顔と勇気と祝福の90分! ポップ・ミュージックのポジティビティを体現したイヤーズ&イヤーズのライブを観た

笑顔と勇気と祝福の90分! ポップ・ミュージックのポジティビティを体現したイヤーズ&イヤーズのライブを観た - pic by Katsunori Abepic by Katsunori Abe

ショウの最中はもちろんのこと、ショウが終わってからもしばらくポジティブな余韻が続く、最高の祝福とある種の啓蒙のダンスポップ体験だった。昨年のフジ・ロック以来となるイヤーズ&イヤーズの単独来日ツアーは、90分をフルに使って最新作『パロ・サント』の世界を構築するコンセプト・ライブでもあって、それは40分程度だった苗場のダイジェスト・セットでは味わえなかったものだ。『パロ・サント』は人類が希少種となった近未来を舞台にした物語で、バック・スクリーンには次々とディストピアが香るイメージの断片が映し出されていく。それがサイバーパンク感甚だしい豊洲PIT周辺のシチュエーションとの相乗効果で、いよいよムードを盛り上げていくのだ。

そう、「パロ・サント」とは希少種となった人類が奴隷売買されるというなかなか憂鬱な設定の世界なのだが、そこで花形奴隷ダンサーとして生きるオリーが次々に抑圧を突き破っていくという解放の物語でもあって、オープニングの“Sancity”の禁欲のエレクトロからセクシーなブラコン風ソウルの“Karma”へ、そして“Desire”の快楽へと達した前半のように、鎖に繋がれた人間をパントマイムで表現するようなダンスも含めてシアトリカルな“Palo Santo”から狂乱のディスコ・ポップ“Hallelujah”へと至った中盤のように、ショウの中でも繰り返し抑圧→解放のプロセスが描かれ、その過程で倍々ゲームのようにカタルシスが充満していく。

この抑圧→解放のプロセスの立役者は何と言ってもオリー・アレクサンダーその人だ。花形奴隷ダンサーを演じるに相応しい魅惑的な身のこなし、生来の人懐っこさと愛らしさ、そしてもちろん圧倒的な歌唱力、さらにはサーカスティックな自己対象化を無意識に行っていく客観性まで持ち合わせた彼は、まさにエンターテナーとなるべく生まれてきた人だ。オリーから一瞬でも目を離すことは難しいし、そんな彼に導かれるように、彼が発する無敵のポジティビティに包まれるように、オーディエンスである私たちもまた、何度も何度も自分の心の箍を外して解放されていくのだ。

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ちなみに今回はエムリ(key)にお子さんが生まれるということでツアー不参加となっていたのだが、オリーが「無事ベイビーが生まれたんだよ、おめでとうエムリ!」と言うと、会場には祝福の歓声が巻き起こる。主要メンバーの不在という欠落要因もハッピーに転じていったことも、この日の彼らとオーディエンスのムードを象徴していたと思うし、エムリの不在をマイキー(Key&B)がバンマスとして2倍、3倍と働いて見事にカバーしていたのも心強かった。また、オリーとフリを合わせてステップを踏みながら歌う男女バック・コーラス隊も、そのボーカル・スキルといいチャーミングなキャラクターといい本当に素晴らしくて、途中で2人をフィーチャーしたアリアナ・グランデの“No Tears Left to Cry”とマドンナの“Like A Prayer”のカバー・コーナーもめちゃくちゃ盛り上がった。

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アンコール、客席のファンからレインボー・カラーの法被をプレゼントされたオリーはこの日一番のハイテンション、早速腕を通すとクルクル回りながらはしゃいでいる。性的マイノリティのエンパワーメントを気負うことなく当たり前に体現しているオリーと、彼から力をもらい、彼に力を与えているファンのそんな交流の中で、いつしかディストピアであったはずの「パロ・サント」が理想郷へと転じていたことに気づかされるエンディングであり、ライトを浴びてキラキラと光るレインボー法被をオリーがはためかせながら歌った“Play”は、オーラスの“King”と並んでこの日のハイライトだったと思う。(粉川しの)

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<SETLIST>
Sanctify
Shine
Karma
Meteorite
Eyes Shut
Lucky Escape
Gold
Desire
Palo Santo
Ties
Preacher
Hallelujah
No Tears Left to Cry(Ariana Grande cover)
Like a Prayer(Madonna cover)
Worship
Rendezvous
(encore)
If You're Over Me
All for You
Play(Jax Jones & Years & Years cover)
King
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