名曲揃いの感涙音源とともに馳せる、全盛期のプリンスへの思い――『オリジナルズ』を聴いて

名曲揃いの感涙音源とともに馳せる、全盛期のプリンスへの思い――『オリジナルズ』を聴いて

6月21日にリリースされるプリンス『オリジナルズ』。収録曲はどれもザ・タイム、シーラ・E、ジル・ジョーンズなどプリンスが後押ししていたアーティストに提供した楽曲だが、この作品のすごいところは、全曲プリンスがボーカルをとるデモ音源になっていることだ。

要するに、曲を提供されたアーティストらは全員このデモ音源で曲を知ったわけで、このプリンスの歌によるデモ音源こそがこれらの楽曲のオリジナルだというのが作品タイトルの趣旨だ。


それにしても、収録曲は名曲揃い、どれもチャートを賑わすことになった楽曲ばかりで、プリンスの気前のよさにただ驚いてしまう。それに、こうやってプリンスのボーカルで曲を揃えると、実質的にこれはプリンスとしての新たなベスト・ヒット・アルバムだとも断言できる。さらに、マルティカに提供した“Love…Thy Will Be Done(邦題:愛がすべて)”を除けば、楽曲の制作はすべて1981年から1985年に集中している。つまり、これはプリンスのキャリアのピークに書かれた楽曲群で、その全盛期の勢いがそのまま凝縮され、このアルバムには詰まっている。このアルバムを聴いていてひしひしと伝わってくるのは、端的にその事実と実感なのだ。

そして、この時期、プリンスの創作意欲がこれほどのピークを迎えていたのはどうしてだろうと考えると、実はプリンスが率いていたザ・レヴォリューションの存在もまた、大きかったのではないかと思い当たる。というのも、もともとツアー・バンドだったザ・レヴォリューションがバンドとして機能し始めたのは1981年前後で、1983年に入るとプリンスはレコーディングでもこのバンドとのアンサンブルを優先するようになっていたからだ。


もちろん、プリンスはデビュー時からずっとひとりでレコーディングの音を作り上げ、それは他界するまで変わることはなかったし、このアルバムの音源もまた、あくまでもプリンスのデモ音源集なのだ。ただ、ザ・レヴォリューションに対してだけは、その長いキャリアを通して唯一コラボレーションを許していて、そのことがこの時期のプリンスの創作に大きく影響していたのではないか、と思えてならないのだ。

プリンスの最高傑作とされる『サイン・オブ・ザ・タイムズ』(1987年)もまた、プリンス自ら1986年に解散させたザ・レヴォリューションとの残されたコラボレーションを作り直した作品だったこと、その後、プリンスが作風を変えていったことも併せて考えると、ザ・レヴォリューションの存在は一般に思われている以上に大きかったのではないか。

そんなことを延々とこのアルバムを聴いていると思い巡らせてしまう。それは、このアルバムが最も強烈だった時代のプリンスの音を鳴らしているからだ。そして、その音の陰にはザ・レヴォリューションがいたことを、このサウンドは思い出させてくれるのだ。(高見展)



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名曲揃いの感涙音源とともに馳せる、全盛期のプリンスへの思い――『オリジナルズ』を聴いて - 『rockin'on』2019年7月号『rockin'on』2019年7月号
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