謎が謎を呼ぶ電子音響アート

エイフェックス・ツイン『チーター EP』
発売中
ALBUM
エイフェックス・ツイン チーター EP
2年ぶりの新作は、1990年代に発売された英国製のモジュラー・シンセ「チーター」を使って作られたものらしく、曲名もそれを示すような記号的なものばかり。音はというと、プリセットされた音色をそのまま使ったようなシンプルで無機質でミニマルな電子音が淡々とリフレインするような素っ気ないもの。リチャードによればチーターはもっともプログラミングしにくいシンセのひとつだそうで、この異様にシンプルなアレンジはその表れなのかもしれない。

要はこの作品は「チーター」というレアなシンセの音色に魅せられたリチャードが、これを使った楽曲を作り、アルバムにしたい、という思いがすべてであって、それ以上のものは、おそらく何もない。音楽で何かを恣意的に語ったり、文学的な象徴性を持たせたりといった行為を一切排除した純粋音響芸術、というよりは「遊び」である。しかし本来テクノとはそういうものだったはずだ。それが単なる実験に終わらずどこかポップで人懐っこいものになっているのは、この人の生来もつ愛嬌ゆえだろう。そういうものが意図せずとも滲み出てくる。それもまたテクノの面白さである。(小野島大)
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