きっとまたジャニスに恋をする、感涙のデラックス盤

ジャニス・ジョプリン/ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『チープ・スリル(50周年記念エディション)』
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ALBUM
ジャニス・ジョプリン/ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー チープ・スリル(50周年記念エディション)

1970年に27歳の若さで亡くなった伝説のシンガー、ジャニス・ジョプリン。そのあまりにも短すぎたキャリアの前半、彼女は、サンフランシスコを拠点に活動するバンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーの「一員」として、2枚のアルバムを発表した。68年の『チープ・スリル』は、その2枚目にして、永遠のロック名盤だ。

50周年の記念盤として企画された本作は、その『チープ・スリル』の決定版「スタジオ・アウトテイク集」である。2枚組CDに収録された全30曲のうち、今回「初出し」の音源は25曲分! これまでジャニス関連の別テイク/未発表曲はあちこちの企画盤にドナドナドーナードーナー♪的に悲しく「切り売り」されていたのだけど、このデラックス盤により、1968年のスタジオ・セッションの全貌がようやく「一枚の絵」としてはっきり見えてきた。

CD1には、おなじみの名曲“サマータイム”や“心のカケラ”など、オリジナル盤を構成していた7曲がほぼ同じ順番の流れで収録されている。ただ、すべて「別テイク」での収録なので、全体の印象はまったく違って聴こえるはず。アウトテイクだからと言って、あなどってはいけない――強引に「疑似ライブ風」のアレンジに編集されていたオリジナル盤と違い、ここでは、それぞれの楽曲を「生」のスタジオ・ライブ感で堪能できる。もちろん最終的にボツになったテイクだから、未完成な演奏も多い。でも、不思議なことにジャニスの場合、そのくらい「自由気まま」に振る舞っているテイクの方がずっと心に突き刺さってくる。自由とは、言い換えれば、「失うものが何もない」ということなのだ。

ご存じのとおり、ジャニスはこの『チープ・スリル』発表直後にビッグ・ブラザーを脱退し、事実上のソロ活動を模索していく。彼女だけが賞賛される状況に対し、当時バンド内では「嫉妬」から生まれるいざこざが多発していたそうだ。その「ギスギス感」は、今回収録されたスタジオ内での「リアルな会話」からもヒシヒシと伝わってくる。自由に大空を飛び回りたい小鳥と、それを束縛したい者たちの追いかけっこ――『チープ・スリル』は、そんなギリギリの現場から生まれた奇跡の名盤だったのだと、僕は今回初めて気づかされた。これまでオリジナル盤を何百回と聴いてきたはずなのに。

そんなふうに、じっくり聴き込めば聴き込むほど、いろんなドラマが見えてくる、素晴らしい50周年記念盤だと思う。人生のある時期、一度でもジャニスの歌に心励まされたという方なら、ぜひ。(内瀬戸久司)





『チープ・スリル(50周年記念エディション)』の詳細はSony Music Entertainment (Japan)の公式サイトよりご確認ください。

ジャニス・ジョプリン/ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『チープ・スリル(50周年記念エディション)』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ジャニス・ジョプリン/ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー チープ・スリル(50周年記念エディション) - 『rockin'on』2019年1月号『rockin'on』2019年1月号
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