『ザ・ビギニング』以来、スタジオ録音のアルバムとしては8年ぶりの7作目であり、ファーギーが正式に脱退しての第1作でもある。ウィル・アイ・アムが原作を担当し2017年の夏にマーベル社から出版されたコミック作品『Masters of the Sun - The Zombie Chronicles』を基としている。LAを舞台に、ギャング化したエイリアンとゾンビが争いを繰り広げ、主人公が知恵と知識で生き抜く、というストーリーで、作中にはBEPと思われるヒップホップ・グループも登場する。いわばマーベル・コミックとストリート/ヒップホップ・カルチャーの合体というわけだ。悪化するばかりのアメリカの人種問題が背景にあり、差別、教育、移民、銃暴力、ブラック・ライブス・マターなどの社会問題を扱った政治的な作品である。
本作はBEPが硬派ヒップホップの原点に戻り、ストリート・カルチャーとしてのヒップホップの担い手である矜恃を完全に取り戻したアルバムと言える。NAS、スリック・リック、エステロ、CL(イ・チェリン)、ア・トライブ・コールド・クエストの故ファイフとアリ、デ・ラ・ソウルのポスドゥヌスなど、年代も国境も超越したゲストが参加し、『The E.N.D.』(2009年)や『ザ・ビギニング』(2010年)のエレクトロニック色は薄れ、ドープでファットなヒップホップの原点に戻るようなクール・トラックが目白押し。出来は相当に良い。エステロをフィーチュアしてボサっぽくしゃれ込む“フォーエヴァー”、スザンヌ・ヴェガ“トムズ・ダイナー”の一節を織り込んだ“ウィングス”など、ネタ使いのセンスも抜群だ。コミックから派生したVR作品の制作も発表されているが、そちらに参加している豪華メンバーを見ると、『VOL.2』への期待も高まる。(小野島大)
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