ザ・フレーミング・リップスのキャリアを代表する一作、ネオ・サイケデリック・ロックの歴史的名盤として名高い一作である『ザ・ソフト・ブレティン』。彼らは過去に何度かこのアルバムの完全再現ライブを行っていて、直近では昨年秋にリリース20周年を記念したツアーを回っていたのも記憶に新しい。本作はそこから遡ること3年、2016年5月に行われた同作の再現ライブを収録したアルバムだ。ただの再現ライブではない。会場はあの「レッド・ロックス」、多くの伝説的ライブの舞台となってきた米コロラド州の野外円形劇場で、U2の『ライヴ・アット・レッド・ロックス』をはじめ、ここで録ったライブ盤、ライブDVDをリリースしたアーティストも数多く存在する。そんな由緒正しい会場に相応しく、リップスはなんとフル・オーケストラを従えてのスペシャル・パフォーマンスを敢行。野外で聴く『ザ・ソフト・ブレティン』というシチュエーションだけでも既に昇天モノなのに、69人!編成のオーケストラと50人以上!のコーラスが参加し、およそ考えうる最大にして最高のスケールで繰り広げられた至高のライブとなっているのだ。
しかし、そんな一期一会のライブであるにも拘らず、本作を聴いて最初に訪れたものは、私はいつか、どこかでこれを「聴いたことがある」という不思議なデジャブの感覚だった。その感覚は聴き進めるうちに徐々に変化していく。そしてラスト・ナンバーの“スリーピング・オン・ザ・ルーフ”、意識を遠く彼方の夜空へと誘う子守唄のような同曲が、さらにその先の宇宙でたゆたうように木霊するコーラスと共に幕を閉じた時、ようやく正しい理解が訪れる。これが、これこそが20年前にリスナーの私たちが頭の中で何倍にも膨らませて夢想し、愚鈍な身体を置き去りにして遠くに飛ばした意識によって必死に追い求めていた、『ザ・ソフト・ブレティン』の「全貌」なのだと。
かつて銅鑼の一撃を現実逃避の号令としていた“レース・フォー・ザ・プライズ”は、ホーンとストリングスの長尺のイントロと共に滑らかに恍惚の中心へと到達する。焦ることはない、既にここがユートピアなのだから。原曲からしてオーケストラル・ポップだった“ウェイティング・フォー・ア・スーパーマン”も本領発揮、スペクタクルなシンフォニーがあのアルバムのポテンシャル、本来の質量をまざまざと伝えている。本作がリップスにとって初の公式ライブ・アルバムであるということも感慨深い。20年前の約束の地に、ようやく降り立つことができた。(粉川しの)
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