メジャー1stフルアルバム。繊細さと芯の強さを同時に感じさせるロックサウンドは、この作品でさらなる高みへと到達した。先にリリースされた“1999”“砂漠のきみへ”“Girls”で、それぞれにバンドの文学性、サウンドデザイン、オルタナティブな志向性は存分に表現されていたが、アルバム曲ではそのすべてがさらに拡張しているイメージ。“変身”には、塩塚モエカ(Vo・G)のポジティビティが力強く軽快に表れ、“ハロー、ムーン(album mix)”では深いリバーブの中で幻想的で詩的な歌世界がたゆたう。なかでも7分12秒にも及ぶ“おまじない”は、そうしたバンドの魅力が1曲に詰まった名曲だ。歪んだギター音が溢れる水のように押し寄せる終盤、賛美歌のようにも響く美しいコーラスが光を感じさせる。そして訪れる静寂。それは癒しのようでも虚無のようでもあり、思い切り揺さぶられた感情が落ち着きを取り戻す。そんな「体験」がこの1曲に凝縮されているのだ。ラスト“ghost”の、ドローンなサウンドと凪のように訪れるギターアルペジオのコントラストも圧巻。文句なしの最高傑作アルバム。(杉浦美恵)
さらなる高みへ到達した最高傑作
羊文学『POWERS』
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