奇跡のブレイク・ポイント

ザ・ブラック・キーズ『ブラザーズ(デラックス・リマスタード・アニヴァーサリー・エディション)』
発売中
ALBUM
ザ・ブラック・キーズ ブラザーズ(デラックス・リマスタード・アニヴァーサリー・エディション)

ザ・ブラック・キーズのブレイク作と言えば誰もが11年の『エル・カミーノ』を挙げるだろうが、本当の意味でのブレイク作はむしろその前年にリリースされた本作のはずだ。そして、そこに至るまでの道程もまた、どこか神話的といってもいい稀有な物語となっている。どこまでもローファイなインディ・ブルース・ロック・デュオだったダン・オーバックとパトリック・カーニーのふたりを気に入っていたデンジャー・マウスは、ソウルの巨頭のひとり、アイク・ターナーのソロ作品用の作曲をふたりに依頼。しかし、アイクが他界したため、その楽曲群を自分たちの作品、08年の『アタック&リリース』としてデンジャー・マウスと制作。ここで初めてプロ意識を叩き込まれることになった。

その後、解散の危機も味わったが、ジェイ・Zの元ビジネス・パートナーでやはりふたりを気に入っていたデイモン・ダッシュから声がかかり、モス・デフ、RZAらのヒップホップ・アーティストとふたりの演奏を合体させる09年のプロジェクト『ブラックロック』に参加。これが大きな話題と評価を呼ぶことになる。

これを機にお互いの絆を確認するとデュオとしての再起を誓い、ダンのソロ・プロジェクトに帯同していたプロデューサーのマーク・ニールと3人でソウルの殿堂、マッスル・ショールズ・スタジオへレコーディングのため向かう。ただ、スタジオはとっくに廃業していたため機材はすべて持ち込みだった。そしてそこで作るという意気込みの結果、音源は極めてソウル感に溢れる出来となり、発表するとふたりにかつてない絶賛をもたらす傑作となった。今回のリマスタリングは、さらにレア音源と未発表音源3曲を加えたもの。なお“Tighten Up”はレコーディング後、再会したデンジャー・マウスと制作した曲だ。(高見展)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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ザ・ブラック・キーズ ブラザーズ(デラックス・リマスタード・アニヴァーサリー・エディション) - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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