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    苦境で結実した進化への欲求

    ブラック・サバス『サボタージュ【 スーパー・デラックス・エディション】』
    発売中
    ALBUM
    ブラック・サバス サボタージュ【 スーパー・デラックス・エディション】

    第2作『パラノイド』、第4作『ブラック・サバス4』に続いて豪華ボックス仕様にて新装登場となったのは1975年発表の第6作。最新リマスターを経たアルバム本編、公演1本分が丸々収められた2枚のライブCD(大半は初出音源)、当時の日本盤アートワークが用いられた“発狂”のシングルという全4枚のディスクは聴き応え充分だし、資料性の高いブックレットをはじめ付属物も充実している。

    70年代初頭から活躍していたバンドにとっては“あるある”のような話だが、彼らも初期の頃は悪徳マネージャーに食い物にされ、本作当時は訴訟問題を抱えていた。トニー・アイオミの自伝などを読むと、この作品が「スタジオの翌日は裁判所、もしくは弁護士との打合せ」といった日常の中で制作されていたことがわかる。

    アルバムのクロージング曲に令状を意味する“リット”というタイトルが冠せられていること、本作自体に“妨害行為”という意味合いの表題が掲げられたことも、そうした事情と無関係ではない。余談ながら、制作中に機材操作を誤って音を消去してしまったテープ・オペレーターの名前も妨害工作員として記載されている。

    そうした逸話に目を通しながら聴いていると、当時の4人の姿を収めた映像が勝手に脳内再生されるような感覚を味わうことができるが、その音から何よりも伝わってくるのは、苦境に立たされながらも音楽的進化を形にしようしていた意地と、意識の高さである。

    ストリングスやコーラス隊の導入といった大胆な試みや、アコースティックとのコントラストにより闇の世界をいっそう深く劇的に演出してみせた楽曲の存在など、このバンドがダークでヘヴィなばかりではなく非常にプログレッシブな一面を持っていたことを改めて実感させられる。(増田勇一)



    ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
    ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

    ブラック・サバス サボタージュ【 スーパー・デラックス・エディション】 - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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