朗らかで滑らかな魔術のかたち

YOASOBI『好きだ』
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YOASOBI 好きだ
島本理生/辻村深月/宮部みゆき/森絵都という4名の直木賞作家とのコラボ企画第2弾は、森絵都による書き下ろし小説「『ヒカリノタネ』――はじめて告白したときに読む物語」をモチーフとした楽曲“好きだ”。森自身「時空を超える片思い」と評するストーリーのニュアンスを、ミディアムテンポの軽快な楽曲と《期待薄い片思いなんて苦いだけ/友達でいいよ》というikuraの小気味好い歌のリズム越しに浮かび上がらせるポップチューンである。と同時に、3回登場するサビのキーがすべて異なっていたり、そのキーの起伏がそのまま感情の起伏を反映するものだったり……といった具合に、Ayaseの意匠が巧みに張り巡らされた楽曲でもある。本当の魔術はトリッキーな混沌ではなく、一見朗らかで平穏に思える景色にこそ宿っている、とでも形容すべきドラマ性が、“好きだ”にも確かに宿っている。ラストの《失敗してもいい/もう一度言うよ/私 君のことが》で終わって、肝心なところがタイトルに託されたロマンチックな佇まいも含め、現代のストーリーテラーとしての秀逸なセンスを改めて証明する一曲。(高橋智樹)

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