表現者が世界を肯定するということは

ビョーク『ヴォルタイック』
2009年06月03日発売
CD+DVD BOX
ビョーク ヴォルタイック
CD2枚とDVD2枚の計4枚組。収録されている楽曲・テイクの数は60曲を超えていて、その在り様は、一発録りのスタジオ・レコーディングだったり、ホール・ツアーから一晩の模様を抜粋したものだったり、あるいは、少人数のオーディエンスを前にした教会での特別な趣向によるパフォーマンスだったりといったライブものから、ミュージック・クリップという領域において試行された3Dものだったり、アマチュア・アーティストのコンテストだったり、ミシェル・ゴンドリーのメイキングだったりといった映像もの、そして、これはある意味定番と言えるのかもしれない、リミックス集のフル・セット――これが、最近作『ヴォルタ』から始まった「現在形ビョーク」の最後を飾るビッグ・プロダクツ『ヴォルタイック』である。

これらのひとつひとつについて語っていくとあまりにも膨大になりそうなので、ひとつだけ。一見すると、この「リアルでフィジカルな作品」は、mp3時代に対抗するアーティストの「アート擁護」のようにも見えるけど、もちろん、そうではない(ビョークは早くからDL解放サイドだ)。これは、ビョークによるビョークの祝福であって、ということはつまり、ひとりの表現者による、すべての表現への祝福ということなのである。あるテーマ、ひとつのメロディ、そこに至るまでのどこまでも突き詰められた表現と、そこからどこまでも広がっていく表現の、その両方を可視的に実体化したものが、この『ヴォルタイック』なのである。そして、であるならばこの作品はそれだけで、この世界への強烈な肯定を宣言するものでもある。(宮嵜広司)
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