ジェイ・Zの新作の“エンパイア・ステイト・オブ・マインド”でも強烈なボーカル・パフォーマンスを披露していたアリシア・キーズの4枚目の新作。前作『アズ・アイ・アム』のリリースと08年のサマーソニックのパフォーマンスでかつての天才少女から一皮も二皮もむけたことを見せつけてくれたが、この新作での飛躍ぶりはとんでもないものだ。スタイルとかアプローチとかそういう次元のことをまったく問題としない、エモーショナルなところで切迫したものが今回の新作では爆発しているからで、本当にアリシアになにがあったのだろうかと思わせるほどだ。作風としては特にこれといって狙ったものはないだろうし、むしろアリシアのインスピレーションの赴くままにゆだねたもので、非常にモダンでコンテンポラリーな作品が揃っている。ある意味でどの曲についても、アプローチ的に冒険があるとはいえない作りになっている。しかし、どの曲の場合にもそこに込められたエモーションの絶対量が今作の場合、とてつもないもので、それがそのままこの新作のエッジになっているのだ。アリシア版の“エンパイア”収録もとても嬉しい。(高見展)