突き抜けたポジティビティを支える本質

アンダーワールド『バーキング ‐デラックス・エディション』
2010年09月02日発売
ALBUM+DVD
アンダーワールド バーキング ‐デラックス・エディション
驚かされるのが、全編を通してよく響くカール・ハイドの声だ。ウェルメイドなポップ・ミュージックと紙一枚隔てたすれすれのところで、歌としてとてつもないパワーを放っている。今作でアンダーワールドは、楽曲によって、出自の異なるプロデューサー陣と組んでいる。彼らはあるときはここぞとばかりに腕をふるい、あるときはちょっと意外性のあるエッセンスを加えてみたりしている。その客観的な解体作業と再構築によって、アンダーワールドとはなんなのか?というのが炙り出され、極めて明快でストレートなサウンドとしてぶつかってくるのだ。

アンダーワールドは世界レベルのダンス・アクトでありながら、ダンス・ミュージックにありがちな軽薄さを忘れさせてしまう、類まれな存在であり続けてきた。あなたを、私を祝福するために、あなたと私が喜びを分かち合うために音楽は鳴る――というダンス・ミュージックの使命を全うしながらも、その実それとは正反対の、ノスタルジックで不器用なロック・ミュージックとしての文学性をけっして損なうことなく歩んできた。クラウト・ロックをはじめとするルーツに立ち返ったのも、アンダーワールドにその自覚があったからではないか。前作と比較するとなおさらとっつきやすく、条件反射で踊り出してしまうトラックが揃っているにも拘らず、その内側には、変わらずに醒めた文学性とノスタルジアが佇む。このサウンドが踊らせるのは、フロアだけでなく世界中のベッドルーム。その意味でも、変わらない。(羽鳥麻美)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする