成功にビビらないポップ根性

フェニックス『バンクラプト!』
2013年04月24日発売
ALBUM
フェニックス バンクラプト!
2009年の傑作『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』がアメリカで大ブレイク、グラミー賞までゲットして一気に世界的スターの仲間入りをしたフェニックス。というか、いきなり宝くじ当てたくらいに、バンド環境が激変したのは間違いない。で、4年ぶりのアルバムがどういうものになったかと言えば、彼らは本質的に変わらなかった。成功体験にバンドが疲れ果てた節もなく、より派手で楽しいポップ・アルバムを引っさげて帰ってきたのである。先行シングルの“エンターテインメント”(!)のもろチャイニーズなシンセのイントロにド肝を抜かれ、思いきり踊れるリズムと切ない歌メロに「おかえり!」と快哉を叫び、それでアルバム・タイトルが「破産!」なんだから、もう白旗を上げて楽しむしかないだろう。しかし、アルバムを聴き進めれば、“バンクラプト!”のメロウなビートルズ的サイケポップもあれば、“クロロフォルム”のような、まどろむバラードもあり、決してアゲアゲなノリの一辺倒でもない。共通して貫かれているのは、ハイファイなプロダクションを前提とした軽やかなチープ・サウンドと、随所にちりばめられた異国情緒である。これは、フレンチ・ポップの本流とも言える、由緒正しい植民地主義への回帰である。レコーディングには、マイケル・ジャクソンが『スリラー』で使ったコンソール卓を中古で購入して使用、バンドは『オルタナティヴ・スリラー』というアルバム・タイトルも真剣に検討したらしい。東南アジアの食器のプリント柄みたいなジャケ写も、デラックス盤のボートラが71曲あるのも、すべてのセンスが素晴らしい。(松村耕太朗)
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