あのトレント・レズナーのことだし、4年前に活動休止を宣言した時点から、もう復帰に向けて用意周到な計画を練っていたんじゃないかと邪推するのだが、本人の話ではなんとなく曲を作り始めたら盛り上がってきてアルバムできちゃった、という感じらしい。とはいえ、エレクトロニック路線への志向は当初から意識されていたはずだし、「再構築」という言葉を使っていることでも察しがつく通り、新機軸を展開しながら、過去に築き上げてきたナイン・インチ・ネイルズの集大成的なイメージを与えるものになっているのも確信犯だろう。ファンならすぐ、5曲目は〝クローサー?、9曲目には〝ヘルプ・ミー・アイム・イン・ヘル?などなど、数多くの「変奏」が端々で聴こえてくるのに気づくはずだ。7曲目はUKニューウェイヴ、8曲目は80sディスコといったルーツも表れている。また歌詞に関してはセカンド『ザ・ダウンワード・スパイラル』の「その後」が綴られており、ラッセル・ミルズが再びアートワークを担当したのは、それを明示するためだという。
エイドリアン・ブリューや、若い頃トレントのヒーローだったリンジー・バッキンガムをはじめ、いつもよりゲストも多彩な印象で、コラボ的な部分が増えたようにも思えたが、それらは「完成直前に加えた味付け」であって、基本的にはアティカス・ロスとアラン・モウルダーの協力のもと、近年ずっと変わらない体制で作り上げたそうだ。
ごく自然な表現意欲と緻密な計略のバランスのよさは、大きな変化と全く変わらない普遍性を同時に感じさせる。キャリアの重ね方としては理想的なあり方だと思う。 (鈴木喜之)