「蝶々P」から「一之瀬ユウ」へ── シンガーソングライターとして歩みだした必然とは?(2)

ちゃんと人間の言葉で思ったことを伝えられるというか、そういうところにも音楽をやる意味があるのかなと思い始めた

――蝶々Pの時とは違うサウンドを意識しましたか?

「そうですね。蝶々P名義のものというか、ボーカロイドの楽曲って、今まで、ほぼすべてと言っていいくらい、ベースもドラムも打ち込みで、それはそれで、蝶々Pとしてひとりで完結してる感は出てたと思うんです。でも一之瀬ユウとしては、よりよいサウンドを求めて、なにせボーカロイドとは違って歌うのが生身の人間なので、そういうところでも全体のグルーヴ感にはこだわりました。だから、すべてのパートが生ってわけではないですけど、できるだけ生録りで」

――一之瀬ユウとしての歌で表現したかったことは?

「ボーカロイドにはボーカロイドの良さがあって、今回は、人間が歌うからこそ伝わる部分っていうか、表現はけっこう意識していると思います」

――バンド時代も含めて、それまで積極的に歌おうとは思っていなかった一之瀬さんが、自分の声で、シンガーソングライターとしての作品を世に出そうと思ったのはなぜですか?

「蝶々Pとしてライブイベントとかに出させていただく機会があって。シンガーさんが僕の曲をステージで歌って、僕がギターなり鍵盤なりを弾いてっていうスタイルが多かったんですけど、そういう活動をしていた頃に、ステージでお客さんの顔を見て、ちゃんと人間の言葉で思ったことを伝えられるというか--そういうところにも音楽をやる意味があるのかなと思い始めたんですよね。自分の声で自分の歌で、ちゃんと音楽を伝えるのもいいなって思うようになっていって。自分で歌った曲を収録するっていうのは、実は今回が初めてというわけでもないんですけど、そういうところから、あまり気負わずにもっとやってみようかなくらいの感じでした」

――で、今回の『Allone』ですが、「オールワン」と読んでいいんですよね? 一瞬「アローン」とも読めます。

「実は『アローン』と読ませようという思いもあるんですけど、Be All Oneで『心はひとつ』っていう意味だし、Alloneだけだと『どうでもいい』っていう意味だったり、あと、Aloneはもともと、Alloneに由来してるっていう説もあるみたいで、いろんな視点で捉えてもらえる曲になったらいいなと思ってこういうタイトルにしました」

――タイトル曲は、一之瀬さんのシンガーソングライターとしての立ち位置が伝わってくるような、温かくて美しい楽曲ですが、これはタイトル曲にしようと思って作った曲?

「ほかにも何曲かリード曲の候補はあったんですけど、これが一番いいかなっていうところで決めました」

――歌詞も非常に切ないというか、気持ちが伝わってくるものになっています。今回は自分で歌うということを前提に書いていますか? ボーカロイド曲として作る時とは違いますか?

「そこは意識して変えているつもりはないんですけど、無意識にそうなっちゃってるところはあるかもしれないですね。僕の場合はいつも曲が先で、メロディを思いついた時に歌詞も同時に出てくるという感じです」

――タイトルは英語ですけど、歌詞は全部日本語ですよね。そこは意識して書いているんですか?

「それも意識しているつもりはないんですけどね。たぶん聴いていただけるのは、日本の方が多いと思うので。これからどうなるかはわかんないですけど、まずは自分の言葉というか、思ってることをちゃんと伝えようと思った時に、伝わりやすいのは日本語かなと思って。自然とそうなった感じです」

蝶々Pも一之瀬ユウも、まったく切り離しているつもりはない

――今回の作品をレコーディングしてみて、一番面白かった、手応えを感じたのはどんなところですか?

「手応えというか、難しかったのは“リナリアの旋律”か“タイムトンネル”かっていうところですかね」

――“リナリアの旋律”はイントロのピアノもすごく跳ねていて、エキセントリックさもありつつ、ダンスミュージックとしても洗練されていると思います。どういうところが難しかったですか?

「単純にコードであったり、全体のグルーヴ感ですね。メンバーのみなさんには、マニアックなプレイというか、僕の予想以上にいろんなことをやっていただけました。でも、みなさんもこの曲が一番難しかったって言ってましたけど(笑)」

――“タイムトンネル”は?

「それも同じような部分ですね。ミドルテンポだけどしっかり疾走感を出すというのは、けっこう苦労しました」

――“タイムトンネル”はポジティブなバンドサウンドで、作品の最後を飾るのにふさわしい楽曲だと思います。今回は様々な楽曲が並ぶ中で、曲順にもこだわりましたか?

「曲順は2〜3回くらい候補を出して迷ったんですが、“タイムトンネル”に関しては、ライブでやる前提というか、絶対ライブでやるための曲にしようっていう思いはあったので、ライブでも、最後みんなで笑って盛り上がれるような曲にしたかったんです。だからこれはアルバムの最後かなって。あとは“Allone”は、表題曲なので1曲目かなとか」

――非常に良い曲が並んで、今後も一之瀬ユウとしての作品に期待してしまうわけですが、今後、蝶々Pとしての活動も並行して続けていくんですか?

「僕としては、蝶々Pも一之瀬ユウも、まったく切り離しているつもりはないんですよね。一之瀬ユウとして、過去の曲とか、これからも蝶々Pとして投稿していくようなボーカロイド曲をセルフカバーでやるとか、そういうのも面白いんじゃないかなと思っていますし」

――一之瀬ユウとしてのライブでは、すでに蝶々Pの過去曲をやっていたりするんですよね? いかがですか、実際にバンドでやって歌ってみて。

「昔の、ボーカロイド曲として作った蝶々Pの楽曲を自分で歌うっていうのは、また、考え直さなきゃいけないというか。うまく言えないんですけど・・・・・・ちゃんと表現しなきゃいけない部分があったりして。ボーカロイドの曲は、表現しすぎちゃいけない部分があるので、そこをどういうふうに伝えていくべきかを考えるのは、面白くもあり難しくもあり、という感じです」

――改めて、一之瀬ユウとして、今回スタートを切ったばかりですが、今後どういうシンガーソングライターになっていきたいですか?

「どういう曲を作っていきたいかという部分で言えば、あまりこれまでと変わらないんじゃないかなと思っています。今までやってきたことの表現方法が変わる、伝え方が変わる、くらいのつもりで僕はいるので。これまでと変わらず、今まで評価されてきた点と、これからも求められるものを考えて、自分なりに解釈して、シンガーソングライターとして活動を続けていけたらいいなと思っています」

提供:UNIVERSAL MUSIC LLC/UNIVERSAL-W

企画・制作:RO69編集部

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