Nulbarichが2nd EP『Long Long Time Ago』をリリースする。顔出しや、メンバー公開を極力行わず、一切の先入観なく音源を聴いてもらい、唯一曝け出すのはライブだけ。音楽のみで勝負したいという、ある種最も純粋かつ茨の道を飄々と突き進む大注目のアーティストである。ヒップホップをベースに本来持つ音楽的探究心が開花、時代を切り開くポピュラーミュージックとなった今作について、バンドの中心人物JQに訊いた。静かに、ゆっくり、淡々と積み重ねていく言葉の影に見え隠れする、青白い情熱と硬派な矜持を感じ取ってもらいたい。
インタビュー=秋摩竜太郎
過去の音楽にリスペクトを込めて、自分たちらしさを確立していきたい
――『Long Long Time Ago』、まずはタイトルに込めた思いから訊かせてもらえますか。
「この盤が伝説になってほしいなって。『昔々こんなヤツがいてさ』ってじいちゃんが孫に話すようなEPになってほしいと思ったんですね。この言葉がフィットするようになるまで、何年も先までこの盤が受け継がれてほしいと」
――そうか、僕は『スター・ウォーズ』を思い浮かべたんですけどね。あれは設定が未来だったら普通のSF物語ですけど、『遠い昔、はるか彼方の銀河系で……』と銘打っているからおもしろいじゃないですか。
「うん、タイトルの意味ってひとつじゃなくて、『あ、いいじゃんそれ!』みたいなのもたくさんあるんで、その中に『スター・ウォーズ』もありました」
――あの映画とのリンクを感じたのは、『Long Long Time Ago』もほんと伝説に残るんじゃないかっていうくらい、僕は一聴してぶっ飛ばされたんですけど。これまでNulbarichが鳴らしてきた音、そのひとつひとつは意外といなたい気がしてたんです。もちろん色々な要素をミックスするサンプリングっぽい手法、節回しやリリックといった面は斬新でしたけれども。
「そうですね」
――でも今作は、例えば1曲目の“In Your Pocket”は現行のアメリカR&Bテイストを取り入れていたり、先鋭的なバンドサウンドですよね。そういう作品にこのタイトルを付けることが『スター・ウォーズ』同様クールだと思ったし、Nulbarichの音楽的探究心が真に開花し始めたんだなあと。
「やっぱり歴史は繰り返すって言われど、ただ昔のものをやっても意味がない。温故知新じゃないですけど、過去の音楽にリスペクトを込めて、今あるものを落とし込んだ上で、自分たちらしさを確立していかないと。唯一無二でなければ、と思いますよね。だって僕たちよりすごいバンドなんてたくさんいるんで、じゃあそっち聴くよってなるじゃないですか。いろんなインプットをいかに自分たちらしいアウトプットに落とし込めるかどうか、そこが僕たちの曲の作り方なので。もともと僕はヒップホップが好きなので、特に“In Your Pocket”は僕の我が出てる感じがありますね。ティンバランドとか、そういうヒップホッププロデューサーのサウンドをバンドに落とし込むにはどうしたらいいんだろう、っていうのは最初から思ってたんですけど。そのひとつの形ができたのかなって気がしてます」
――唯一無二の形ですし、しかも時代を切り開くような革新性も伴った作品だと思います。
「あ〜めっちゃうれしいですね」
「普通なんだけどカッコいい」はセンスがないとできない
――3曲目の“Onliest”も、例えばファレル・ウィリアムスの息吹を感じるような、ポピュラーミュージックとしての完成度と実験性を兼ね備えたハンパない楽曲だなと。
「ファレルは大好きですね、N.E.R.Dとか。ヒップホップを学んで――DJプレミアだったりから始まり、だんだん激しくなってジャスト・ブレイズとか、あの辺のサウンドがすごく好きで。その中でもファレルって特徴のあるサウンドだと思うんですよね。だから“Onliest”はナチュナルにこうなったし、そりゃ影響されてるでしょうね、こんだけ好きなんだもんっていう感じです」
――メロディ、コーラス、音の抜き方とサビでの加え方。どれも絶妙ですよ。
「そう言ってもらえるは感動ですけど、ファレルは天才なんで。N.E.R.Dの『Seeing Sounds』とか、ミックスのバランスも含めて、すごいちゃちなんですけど超カッコいいんですよ。まさに抜く感じ、すごい普通なんだけどカッコいいとかってセンスがないとできないじゃないですか。その美学がファレルやティンバランドを通して自分に入ってる部分はあると思いますね。そして、ポピュラーってすごい最高っていうか。いろんなジャンルがありますけど、その最高峰が集まったものがポピュラーミュージックという括りだと思うので。R&Bでもブルースでも何でも、キャッチーなものはポピュラーミュージックじゃないですか。たくさんの人に届くっていうことですから。真逆にオルタナティブがあると思うんですけど、その意志に賛同者がたくさんいて、その曲がめちゃめちゃよければオルタナティブの最高峰、つまりポップスになるわけで、結局キャッチーって無敵だなって。僕の音楽をどのジャンルに置いてもいいですけど、そのジャンルのトップにはいたい、一番キャッチーでありたいですよね」
――そこを目指していたいと。
「そうですね、そうでありたいというか。自分の音楽がポピュラーであってほしいというのはみんな一緒だと思います」