NO NUKES 2019の2日目は、1日目と同じく13時の開演で、この日はトークセッションからのスタート。坂本龍一、いとうせいこう、Gotchに加え、田中優(未来バンク)を迎えて、エネルギーの自給自足生活など、個人で実践できる具体的な方法や、未来の暮らし方についての有意義なディスカッションが進む。生活に密着したトーク内容ということもあり、誰もが興味深く話に耳を傾けていた。
Yogee New Waves
2日目のラインナップには初登場のバンドが3組。さらに坂本龍一+大友良英という、このフェスならではの珍しいユニットの実現など、新鮮なタイムテーブルが組まれた。そんな中、トップバッターで登場したのが初登場となるYogee New Waves。サウンドチェックの段階から、鳴らされる音がとても気持ちよく、本番への期待も高まる。“Good Night Station”でライブはスタート。この日のステージはキーボードに高野勲、パーカッションに松井泉を加えた6人編成。豊かなバンドサウンドに会場中が1曲目から引き込まれていく。“CAN YOU FEEL IT”では、16ビートにパーカッションとタンバリンが重なり有機的なリズムを生み出すと、そこにアップテンポでドライブするギターサウンドが乗り、角舘健悟(G・Vo)は、フロアに問いかけるように《CAN YOU FEEL IT?》とシャウト。さらに続く“Bluemin’ Days”でもギターが炸裂し、そのバンドサウンドはポジティブな未来を予感させてくれた。MCで改めてメッセージを伝えることもなかったけれど、彼らがここに立ち、自由な音楽を奏でているということ、そのこと自体に意味を感じた。
●Yogee New Waves セットリスト
1.Good Night Station
2.Suichutoshi (little ver.)
3.emerald
4.Good Bye
5.CAN YOU FEEL IT
6.Bluemin' Days
7.Like Sixteen Candles
坂本龍一+大友良英
続いては、坂本龍一+大友良英。セットチェンジでグランドピアノが運び込まれるのを見て、ピアノサウンドを軸に展開する音楽を想像した人は、とにかく驚いたことだろう。始まったのは完全なるインプロであり、アートであり、それぞれの「音の応酬」で情景を描いていくサウンド・インスタレーションとでも呼びたくなるような不思議な体験だった。お互いの出す微かな音やノイズが、まるで悲劇の予感を感じさせたり、日常の風景を表現したりと、ひとつの物語のように展開していった。大友の放つアナログレコードのスクラッチノイズや、坂本がピアノの弦に直接指で触れて出す不穏な音は、イマジネーション次第で、聴き手それぞれに、様々な風景を浮かび上がらせたことだろう。坂本はギターを手にすると、さらに不穏なノイズを走らせる。それに呼応するように大友のギターがダークな鐘の音を思わせる音色をループさせ、坂本のノイズはさらに増幅する。空間を支配していく禍々しい音は、互いに共鳴しあいながら攻撃性を増し、やがてフィードバックノイズが静かに止むと、そこに立ち現れるのは孤独のような静けさ。終盤、ようやく坂本がピアノの鍵盤を指で叩き始め、大友も透明感のあるギターサウンドを鳴らす。メロディになる以前のプリミティブな音が鳴り響き、そして完全な無音が訪れて終演を迎えた。ふたりがステージを去った後の会場中のざわめきが、この共演の衝撃を物語っていた。
サンボマスター
衝撃的なセッションの余韻を、ストレートなバンドサウンドで塗り替えたのは、これまた初登場となるサンボマスター。“青春狂騒曲”でスタートしたこの日のセットリストは、すべての曲がキラーチューンだったと言ってよい。「忌野清志郎、ボブ・ディラン、ジョン・レノン、それからおまえのことも今ロックンロールだと思ってるから」と山口隆(唄とギター)が叫んで歌い切る“ロックンロール イズ ノットデッド”は、フロアにいるオーディエンスを、傍観者ではなく「当事者」に変える圧倒的な力を持つ。この曲だけではない、サンボマスターの歌は、動き出そうとするすべての人の背中をやさしく、けれどとても強い力で押してくれるパワーに溢れているのだ。「できねえと思ってんのか? できるんだよ。おめぇさえ力を貸してくれればできるんだ。おまえらそんなもんじゃねえだろ!」というアジテーションから、“できっこないを やらなくちゃ”へと続く流れにはもう涙を止めることができなかった。“世界はそれを愛と呼ぶんだぜ”で思い切り叫ぶ《愛と平和!》のコール&レスポンス。凄まじい熱量でぶつかってくるバンドサウンドに、誰もが声を上げずにはいられない。ラストの“輝きだして走ってく”では、「次の一言、重めに聞いてくれ」と告げて、《負けないでキミの心 輝いていて/大丈夫 と声が聴こえる》のフレーズを届けてくれた。「忘れんなよ、おめぇの命、忘れんな!」と、最後まで全力のメッセージが響き渡って、心にとてもあたたかいものが残った。
●サンボマスター セットリスト
1.青春狂騒曲
2.そのぬくもりに用がある
3.ロックンロール イズ ノットデッド
4.ラブソング
5.できっこないを やらなくちゃ
6.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
7.輝きだして走ってく
Nulbarich
続いては、またもや初登場のバンド、Nulbarich。スタイリッシュにグルーヴィーなサウンドで、とにかく気持ちよく踊らせてくれた。“It's Who We Are”でスタートすると、軽やかながら厚みのあるバンドサウンドに引き込まれていく。続く“VOICE”でのキレの良いギターカッティングと低音の効いたビート、そして心地好い響きのファルセットに、徐々に観客の体も大きく揺れていく。スケール感のあるダイナミックなダンスサウンドが彩る“Kiss You Back”は、繊細で美しい音像とJQ(Vo)の伸びやかな歌声がとても気持ち良いグルーヴを生む。さらに「ひとつになりたいです」と始まった“On and On”では独特のミドルのタイム感でフロアをひとつにしていくが、観客の盛り上がりがまだまだ足りていないと感じたのか、JQは「よっしゃ、みんなが硬いのは俺らのせいだな。じゃあこっちからくだけていきましょう」と語り、それを合図にバンドがフリーキーなアンサンブルを奏で始めると、その熱量に大歓声が湧き上がる。このナチュラルな佇まいもまた、Nulbarichらしい。「今回(出演するのを)すげえ悩んだんですよ。でも、考えることが大事だと思ったので」と語るJQだが、ここでこうして素晴らしい音楽を鳴らしてくれていること、そして自身の思いを素直に表明することこそが、ひとつの大事なメッセージだった。
●Nulbarich セットリスト
1.It's Who We Are
2.VOICE
3.Kiss You Back
4.On and On
5.I Bet We’ll Be Beautiful
6.Zero Gravity
7.ain't on the map yet
8.Almost There
ACIDMAN
次に登場したのは、ACIDMAN。3ピースのロックバンドが放つソリッドでエモーショナルな音は、もはやNO NUKESには欠かせないものとなっている。“リピート”で描いた《未来を預けた 祈りに少し似ているような気がして/崩れたバランスを 嘆いて 認めて くり返して くり返して》という歌詞が、現代の日常を映し出すようでとてもリアルに響く。強烈なギターサウンドとともに、自らに問いかけるような力強い歌が響く“ストロマトライト”、そして「生」のエネルギーに満ちた“FREE STAR”、さらに3ピースのスリリングなバンドサウンドの凄まじさを体感するACIDMANのアンセムとも言える“ある証明”では、フロアで突き上げられる拳ひとつひとつに強い思いが宿っていくのがわかる。大木伸夫(Vo・G)はこの日、「僕らは毎年3月11日に福島でライブをやって、それで、線量計を持ってギリギリ入れるところまで行くんです。それは僕自身が怖いから。不安でたまらないから。政治的発言でも何でもなく、僕自身が怖いんです。それだけ」と、まっすぐに思いを伝えると、最後は「今日のイベントにぴったりな曲を」と“UNFOLD”を披露。オルタナティブなギターサウンドと切実な歌声が、失われゆく風景を思い起こさせる。圧巻の演奏だった。
●ACIDMAN セットリスト
1.リピート
2.ストロマトライト
3.FREE STAR
4.ある証明
5.MEMORIES
6.UNFOLD
ASIAN KUNG-FU GENERATION
フェスの大トリを担うのはASIAN KUNG-FU GENERATION。「NO NUKESという曲を演ります」と言って“N2”でライブがスタート。サポートメンバーとして下村亮介(the chef cooks me/Key)を加えた全5人編成でのバンドサウンド。最新作『ホームタウン』から“サーカス”が演奏され、アイロニカルな歌詞を噛み締める。 そして“荒野を歩け”で描く、日常のなんでもない風景の爽やかさ。それをこうしてここで噛み締めることのできる幸福感。これこそがリアルだ。“リライト”では、なんとSKY-HIがサプライズで登場。キレッキレのフリースタイル・ラップを決めて、一陣の風のように去っていった。たまたま遊びに来ていたというSKY-HI。直前にこのゲスト出演が決まったとのこと。当然リハもないしどんなラップにするかも決めていない。それであのバイブスを生むのだから心底驚かされる。本編最後は再び最新作から“ボーイズ&ガールズ”。ポジティブなロックンロールがこのフェスのエンディングにとてもふさわしい。アンコールでは後藤正文(Vo・G)が「みんな明日から日常に戻るんでしょ? 俺たちも過酷なツアーに戻ります。でも、時々こうやって少しずつ何かを持ち寄って、それで帰っていけたら幸せだよね」と、この2日間を振り返る。そして、「みんなの気持ちが解放されますように」と、新曲“解放区 / Liberation Zone”を披露してくれた。ポエトリーリーディング的なパートが徐々に熱を帯びていくのは、ライブ演奏ならではなのかもしれないけれど、本当に心が解き放たれるような高揚感を感じさせてくれて、バンドが今、とても充実した状態にあることを感じさせてくれた。
●ASIAN KUNG-FU GENERATION セットリスト
1.N2
2.センスレス
3.スタンダード
4.サーカス
5.荒野を歩け
6.Re:Re:
7.リライト
8.ボーイズ&ガールズ
En.解放区 / Liberation Zone
最後は坂本龍一も再びステージに登場し、アジカンのメンバー全員と一緒に肩を組んで深々と頭を下げた。鳴り止まない拍手と濃密な音楽の余韻を残しながら、こうして2日間にわたるNO NUKES 2019は幕を閉じた。また新たなアーティストも加わり、それぞれがそれぞれの思いで音楽を奏で、同じ時間を共有しながら、その時間の素晴らしさを実感した2日間。音楽が何かを変えるわけではない。けれど、音楽には人を動かす力がある。それを心から体感した今回のNO NUKESだった。(杉浦美恵)
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