居酒屋でも隣のグループがうっさいなと思ったりするじゃないですか。でも、あの輪っかの中に入ったら、うっさいとこってめっちゃ楽しいじゃないですか
――“死がふたりを分かつまで”はどういったところからスタートしたんですか?「ギターでコードを弾いて歌い出しから作ろうとしたとき、23っていう言葉が出てきて。後々、なんか引っかかるなと数えたらこの曲が23曲目やったんですよ。だったら、日記の23ページ目にしてみようかな、っていうところから詰めていった感じですね。で、そこから考えるなら今のことを言わなアカンやろうし、振り返るだけじゃなく」
――“君の秘密になりたい”から一歩進んだ世界観がありますよね。
「“君の秘密になりたい”は僕の中ではちょっと若いっていうか青さがあるように感じてて。学校とかが舞台っぽかったりするんですよ。《校舎》とか、そんな言葉が入ってたり」
――“君の秘密になりたい”だと胸が締めつけられるほど痛いと歌ってて、“死がふたりを分かつまで”でも同じように痛いんだけど、そこから手を伸ばそうしてて。
「童貞臭さは消えましたよね(笑)。良くも悪くも、どっちに転んだのかはわからんですけど」
――《住む場所は騒がしい方がいい》というのは秀逸なパンチラインだと思いました。騒がしさって邪魔なときもあるけど、紛らわせてくれたり、逃避する場所にもなりますし。実際にそういうほうが好きだったりします?
「住めば都じゃないけど、結局そうですね。なんやかんや言うて、居酒屋でも隣のグループがうっさいなと思ったりするじゃないですか。でも、あの輪っかの中に入ったら、うっさいとこってめっちゃ楽しいじゃないですか」
――熱狂に包まれてるようでもありますし。
「でも、隣の席で関係ない大学生に騒がれたらめっちゃムカつく(笑)。じゃあ、自分らでその騒いでる輪を広げるしか解決策はないな、みたいな。ちょっと屁理屈に近いですけど」
――でも、それってヤマトさんのスタイルですよね。
「そうです、そうです。それが『PSYCHIC FES』にもなってるし。迷惑かけることもあるけど(笑)、それはそれで、って感じで。ゴメンナサイって本気で謝りながら」
――疾走感のある“あきらめのすべて”ですが、こういうメロディックパンク的な要素もヤマトさんにはあるんですよね。
「この曲はアプローチありきっていうか、勢いで押し切ろうぜ、みたいな。“第三種接近遭遇”とか“神崎川”もそうなんですけど、ちょっと仄暗さがあるんで、なんか楽しいみたいな感じ、と。でも、歌詞は結局僕から出てくるもんなのでちょっと後ろ暗いモノにはなってますけど」
――でも、諦めるってヤマトさんに似合わない気もして。
「そうですね。この曲はレコーディング当日までにちゃんと全部できてなくて、タイトルも決まってなくて。こういう曲調はPK shampooではなかったし、ホントにこれでいいのか、とか。あと、(歌詞も)2番まで作ってあったけど、いるか?みたいなのもあり。時間も迫ってるし、もういっか、諦めようとなって」
――それがタイトルになった、と(笑)。
「思い切りの良さってある種の諦めだと思ってて、角度を変えれば」
――確かに、決断だってそれ以外の可能性を諦めてるという。
「もしかしたら、第2案、第3案のほうがいい道やったかもわからんし。でも、そんなことをウジウジ言っててもしょうがないから行こうぜ、みたいな気概を僕は2ビートや速いBPMから感じるというか」
――メロディックパンクのバンドって、これしかできないんです、みたいな潔さがありますよね。
「それが良さやと思うし。だから、すべての諦めがここに詰まってますね(笑)。でも、そうすることでいちばん明るく仕上がったし、逆説的にそれがいちばん楽しいやん、みたいな」
ここに行ったら終点でそこまでの人生を振り返ってみようか、みたいな生き方より、どっちかと言うと隣の駅まで行こう、みたいな感じに近いんです
――また、“第三種接近遭遇”はヤマトさんがソロとして発表した曲で、“神崎川”はバンド初期に発表した曲ですよね。この2曲をピックアップしたのは?「“神崎川”は友達のバンドがカバーしてくれる率がめっちゃ高かったんですよ。いろんなアレンジをしてもらったし、思い入れ深い曲でもあって。この曲はまだ再録もしてないし、『再定義 E.P』っていうなら入れておいたほうがいいか、と。結構アレンジも変わってるんですけど、歌も当時は吐き捨てるように歌ってて」
――歌い叫んでる感があります。
「キーの設定が高くて、もう届いてないみたいな。まあ、それがあの頃は良さだったような気もするんですけど、今になって聴くともうちょっと歌い直したいな、と。アップデート版じゃないけど、もう1回やろうと思ったっていう感じですね」
――“第三種接近遭遇”に関してはいかがですか?
「この曲、出したときから、いちばん好きや、って言ってくれる人、結構おったんですよ。歌詞も1番までしかなかったんですけど」
――バンドバージョンになって最後のブロックが足されてますね。
「バンドでやるときにさすがに短いと思って足したんですけど、自分的にも、バンドでやる前の短さも含め、言いたいことが詰まってて。解釈の余地も広くていい曲やな、と。あと、これ大阪の曲なんで。“神崎川”もそうですけど、“死がふたりを分かつまで”はわりと都心の曲やったりするから、大阪然とした曲も再定義的には必要かなって」
――根幹を見つめ直したとき、改めて大阪をピックアップしたかったのも理由なのかなと想像してました。
「関西の曲を、やっぱりちゃんとやっておきたかった。『再定義 E.P』と名乗っておきながら、いきなり
東京はどうのとか言っててもなんかちょっとちゃうやろうと思ったし」
――気になったのが《僕はまだどこにも向かえなくて/環状線内をただ回るだけ》という歌詞で。人生って結局はグルグルと回る日常を受け止めなきゃいけない、みたいな考えがあるのかなと思ったんですけど。
「長くかけてどっかへ向かってるっていうよりか、なんかずっと同じところを回ってるというか、終点があるように思えないというか、僕の中で人生って。ここに行ったら終点でそこまでの人生を振り返ってみようか、みたいな生き方より、どっちかと言うと隣の駅まで行こう、みたいな感じに近いんです。こういう夢があってとか、わかりやすくメジャーデビューをしたいとか、そういうところを目指してやってきたというより、勉強したくない、でもこの学校もキモい、みたいなところから連鎖して連鎖して、今のところ、こういうレーベルに入らせてもらったというのがあって。次はわかんないんですけど、こんなメジャーレーベル嫌や、って言い出すかもしれないし(笑)。それって環状線とかに近いし、グルグルしてるだけのような気がしてるな、みたいな」
――本来はゴールを目指したいんですか?
「あ〜どうなんでしょうね。でも、ゴールに着いても、またここは嫌やって言い出しそうな気がする(笑)」
――1周するたびにちょっと強くなって、それこそ“君の秘密になりたい”をセルフオマージュして“死がふたりを分かつまで”が生まれたように、積み重ねたモノが表現できるかもしれないですよね。
「本当に進むって、そういうようなことな気もしてくるし。回ってたら、いつの間にか進んでたみたいな、そういう感覚はあるような。もしかしたら、そうやって最後に辿り着いた場所をゴールって言うのかもしれないですね」