スティング @ Bunkamura オーチャードホール

スティング @ Bunkamura オーチャードホール - STINGSTING
スティング @ Bunkamura オーチャードホール - STINGSTING
スティング @ Bunkamura オーチャードホール - STINGSTING
2月のポリス再結成来日に続いて、今回はソロでの来日公演。2008年は実はスティング強化年だったのだろうか。でも今回は、彼の歴代のヒット・ソングの数々を聴くというのとは趣向が違う。2006年にリリースされたアルバム『ラビリンス』を完全再現する、というコンセプトのもとに行われるステージなのである。一応説明しておくと、『ラビリンス』は16世紀イングランドの作曲家にしてリュート奏者、当時「イギリスのオルフェウス」とまであだ名されたジョン・ダウランドの作品である歌曲やリュート曲を、スティングがサラエボ出身のリュート奏者エディン・カラマーゾフらとともにレコーディングしたものだ。今回のステージは、そのエディンや数名のコーラスとともに披露される、いわゆる「スティングの単独公演」とはかなり性格の違ったものなのだ。開演時間になると、ステージ上には男性4名、女性4名の混成コーラスが現れ、譜面を前にして歌い出した。透き通るように美しい、豊かなハーモニーがホールを満たす。正直、オーチャードホールに来るといつも思うけど、今回はとりわけ強く今の自分は場違いなんじゃないかと思ってしまった。時期が時期ということで“きよしこの夜”なども歌われるサービス。そして4曲ほど歌い終えたところで、混成コーラスは袖に引っ込み客電が点された。「これで第一部の公演を終了いたします」。ええーっ、もう? 客席にも少しどよめきが走った。まあ、第一部と言っても公開リハーサルみたいなものなのかな。いや、この手のコンサートというのは本来こういうものなのだろうか。

いよいよ第二部がスタートする。スティングとエディンが登場し、館内には大きな拍手が巻き起こった。そしてエディンが爪弾き出したリュートの音色が……素晴らしい。軽く身震いさせられてしまうような美しさだ。作者不明のトラディショナルなバラード“ウォルシンガム”からのスタートである。スティングがダウランドという人物についての簡単な説明を済ませると、続けて手紙の朗読を始めた。これはアルバムにも収められているものなのだが、流浪の音楽家だった頃のダウランドが、政治や宗教の狭間で己の立ち位置に思い悩んでいた様子を記した手記である。コンサート本編の中で、何度かこの朗読が行われ、歌曲と呼応するようにして物語が進展していった。ダウランドが残したメロディの数々は静謐なものから激しいものまでさまざまだが、大仰さというものとはまるで無縁で、ブリティッシュ・トラッドのフィーリングを残す素朴さと率直さの情感に満ちている(サラエボ出身のエディンの手にかかることで本来の形とはまた少し違った色が加味されるのかもしれないが)。歌詞も極めて庶民的で普遍的な、苦しみや痛みや喜びや意志が綴られたものだ。そうしたシリアスでポップなソングライター然としたダウランドの佇まいに、スティングは惹かれたのかも知れない。時折スティングもアーチリュートを抱えて二重奏を披露するのだが、これがまた随分熱心に練習したんだろうなという熱演で、彼のダウランドへの深い心酔ぶりを伝えてくれるようであった。

アンコールはビートルズの“イン・マイ・ライフ”やスティング自身の持ち歌である“フィールズ・オブ・ゴールド”“メッセージ・イン・ア・ボトル”などをサービス精神旺盛にプレイする。当然オーディエンスは沸くのだけど、実際のところこれはシンプルなアコースティック・セットという風にしか聴こえなくて、蛇足気味ではなかったかという気がする。挙句の果てにロバート・ジョンソンのブルース“ヘルハウンド”を披露するのだけれど、それでこれはなかなかアレンジがカッコ良くて盛り上がれたのだけど、何しろ本編でダウランドと同時代の宮廷作曲家ロバート・ジョンソンの曲をやったりしているもんだから、なんだよロバート・ジョンソン違いのボケかよ!という感じでガックリきた。うーむ、ご愛嬌。セットリストには載ってないけど最後に“さくらさくら”もやってくれました。ともかく、リュートの音色や美しいコーラスの聴こえ方が生とCDとではケタ違いで、それによって引き出されたダウランド作品の本来の魅力を、門外漢なりにも学ぶことができた夜であった。ありがとう、スティング。(小池宏和)

1.Walshingham
2.Reading−letter extract 1
3.Flow My Tears
4.The Lowest Trees Have Tops
5.King of Denmark, His Galliard
6.Reading−letter extract 2
7.Can She Excuse My Wrongs
8.Reading−letter extract 3
9.Fine Knacks for Ladies
10.Reading−letter extract 4
11.A Fancy
12.Come Heavy Sleep
13.Reading−letter extract 5
14.La Rossignol
15.Come Again
16.Have you seen the Bright lily Glow
17.Reading−letter extract 6
18.Weep you no more, Sad Fountains
19.Clear or Cloudy
20.Reading−letter extract 7
21.In Darkness let me Dwell

アンコール1
22.Where Corals Lie(Elgar)
23.Linden Lea(Williams)
24.In My life(Beatles)
25.Fields of Gold
26.Message in a Bottle

アンコール2
27.Bethlehem Down
28.Say,Love,If ever thou didst find

アンコール3
29.Hell Hound(Robert Johnson)
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