いよいよ第二部がスタートする。スティングとエディンが登場し、館内には大きな拍手が巻き起こった。そしてエディンが爪弾き出したリュートの音色が……素晴らしい。軽く身震いさせられてしまうような美しさだ。作者不明のトラディショナルなバラード“ウォルシンガム”からのスタートである。スティングがダウランドという人物についての簡単な説明を済ませると、続けて手紙の朗読を始めた。これはアルバムにも収められているものなのだが、流浪の音楽家だった頃のダウランドが、政治や宗教の狭間で己の立ち位置に思い悩んでいた様子を記した手記である。コンサート本編の中で、何度かこの朗読が行われ、歌曲と呼応するようにして物語が進展していった。ダウランドが残したメロディの数々は静謐なものから激しいものまでさまざまだが、大仰さというものとはまるで無縁で、ブリティッシュ・トラッドのフィーリングを残す素朴さと率直さの情感に満ちている(サラエボ出身のエディンの手にかかることで本来の形とはまた少し違った色が加味されるのかもしれないが)。歌詞も極めて庶民的で普遍的な、苦しみや痛みや喜びや意志が綴られたものだ。そうしたシリアスでポップなソングライター然としたダウランドの佇まいに、スティングは惹かれたのかも知れない。時折スティングもアーチリュートを抱えて二重奏を披露するのだが、これがまた随分熱心に練習したんだろうなという熱演で、彼のダウランドへの深い心酔ぶりを伝えてくれるようであった。
アンコールはビートルズの“イン・マイ・ライフ”やスティング自身の持ち歌である“フィールズ・オブ・ゴールド”“メッセージ・イン・ア・ボトル”などをサービス精神旺盛にプレイする。当然オーディエンスは沸くのだけど、実際のところこれはシンプルなアコースティック・セットという風にしか聴こえなくて、蛇足気味ではなかったかという気がする。挙句の果てにロバート・ジョンソンのブルース“ヘルハウンド”を披露するのだけれど、それでこれはなかなかアレンジがカッコ良くて盛り上がれたのだけど、何しろ本編でダウランドと同時代の宮廷作曲家ロバート・ジョンソンの曲をやったりしているもんだから、なんだよロバート・ジョンソン違いのボケかよ!という感じでガックリきた。うーむ、ご愛嬌。セットリストには載ってないけど最後に“さくらさくら”もやってくれました。ともかく、リュートの音色や美しいコーラスの聴こえ方が生とCDとではケタ違いで、それによって引き出されたダウランド作品の本来の魅力を、門外漢なりにも学ぶことができた夜であった。ありがとう、スティング。(小池宏和)
1.Walshingham
2.Reading−letter extract 1
3.Flow My Tears
4.The Lowest Trees Have Tops
5.King of Denmark, His Galliard
6.Reading−letter extract 2
7.Can She Excuse My Wrongs
8.Reading−letter extract 3
9.Fine Knacks for Ladies
10.Reading−letter extract 4
11.A Fancy
12.Come Heavy Sleep
13.Reading−letter extract 5
14.La Rossignol
15.Come Again
16.Have you seen the Bright lily Glow
17.Reading−letter extract 6
18.Weep you no more, Sad Fountains
19.Clear or Cloudy
20.Reading−letter extract 7
21.In Darkness let me Dwell
アンコール1
22.Where Corals Lie(Elgar)
23.Linden Lea(Williams)
24.In My life(Beatles)
25.Fields of Gold
26.Message in a Bottle
アンコール2
27.Bethlehem Down
28.Say,Love,If ever thou didst find
アンコール3
29.Hell Hound(Robert Johnson)