スピッツ/横浜アリーナ

スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)

●セットリスト
1. 醒めない
2. 8823
3. 涙がキラリ☆
4. ヒバリのこころ
5. ヘビーメロウ
6. 冷たい頬
7. 君が思い出になる前に
8. チェリー
9. さらさら
10. 惑星のかけら
11. メモリーズ・カスタム
12. エスカルゴ
13. ロビンソン
14. 猫になりたい
15. 楓
16. 夜を駆ける
17. 日なたの窓に憧れて
18. 正夢
19. 運命の人
20. 恋する凡人
21. けもの道
22. 俺のすべて
23. 1987→
(アンコール)
EN1. ハチの針
EN2. 恋のうた


7月1日からスタートした「SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”」、その全22公演が終了した。今年はスピッツが結成して30年、そして、メンバー全員が50歳を迎える年でもあるということで、ツアータイトルはアニバーサリーな気分全開。もちろん、その内容もスペシャルなものになるのではないかという期待が、ツアースタート前から高まっていた。千秋楽を迎えた今、筆者が見た8月23日の横浜アリーナ公演を、終演後に記しておいた感想をもとに改めて思うところを書き加えたレポートで振り返ってみる。
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)
横浜アリーナでは過去2回ステージに立ったことがあるが、なんと単独では今回が初。客電が落ち、まばゆい光が会場中を照らし出す中、メンバーたちが登場すると、はじけるような歓声が出迎える。1曲目に演奏されたのは“醒めない”。彼らの止むことのない音楽への思いと、ロックに出会った時のときめきが、そのまま歌になったかのようなピュアでたくましくてあたたかい楽曲だ。この曲こそ、結成から30年を迎えたスピッツの新たな決意表明であるかのように受け取れるし、このツアーの意義そのものを表しているかのようでもあった。

その“醒めない”から、序盤は“8823”、“涙がキラリ☆”、“ヒバリのこころ”と、時代を遡っていくように名曲が連発される。モニターにはメンバーの映像もモノクロで映し出されて、今この瞬間も大切な足跡となることを物語るようだった。何よりメンバー全員が、この日のライブを楽しんでいる様子がよくわかる。大きな会場で響くスピッツの音は、今思い返してみてもとびきり「ロック」だった。
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)
「今日は楽しい夜にするから、最後までついてきてくれ!」と、いつもより力強い草野マサムネ(Vo・G)の言葉にも、どことなくこの日のアグレッシブなモードが表れていた。最新曲のひとつ“ヘビーメロウ”の後に三輪テツヤ(G)のクリアーでノスタルジックなギターイントロが響いて“冷たい頬”へ。スピッツファンの中でもかなり人気の高い曲だが、儚くて甘い過去の記憶が蘇るようなこの歌が、リリースから約20年を経た今もなお、その輝きを曇らせていないのが嬉しい。それどころか、自分自身も年月を経た分だけ、歌詞の意味を明確に理解できるようになっていることに気づく。おぼろげに感じていた切なさの意味が、自分のその後の人生にも重なり合って、この歌がこんなにも深く自分の中に刻まれていたのだなと再発見するような。そう、こんなふうに、今回のライブはスピッツの名曲たちに触れながら、バンドだけでなく自分自身の30年にも向き合うような、そんなマジカルな時間だった。
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 石橋俊治(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 石橋俊治(8月24日@横浜アリーナ公演より)
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 石橋俊治(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 石橋俊治(8月24日@横浜アリーナ公演より)
そして、この日には実はもうひとつのアニバーサリーがあった。「噂に聞いたんだけど」、「本当かどうかわからないんだけど」という前置きがあった上で、「今日のライブが(スピッツとして)1000回目のライブらしい」とマサムネが告げる。どんなに大きな会場でもMCがナチュラルで楽しくて、まったくロックスター然としていないのがスピッツのライブの魅力でもある。特に面白かったのは、新作のシングルコレクションが好評でチャートも上位に入ってるという話の後のやりとりだ。
マサムネ「じゃあロックチャートはどうかなと思って見たら、スピッツはロックチャートには入ってなかったの」
田村明浩(B)「登録した時、曲があんまりロックじゃなかったからじゃない?」
マサムネ「え? ロックって登録制なの?」
三輪「そんなチャートには入らなくていいよ!」
ロックが登録制かどうかはさておき(笑)、この会話からも、今のスピッツが実は「ロック」というものを強く意識していることがわかるし、実際、彼らの音はロック以外の何物でもないと思う。もちろんそれが、ポップのフィールドで評価されてきたことがスピッツならではの軌跡なのだけれど。その流れの中で演奏された“惑星のかけら”なんて、ノイジーに歪むギターサウンドに手放しで心が躍ってしまう。1992年、3rdアルバムの表題曲。それが今アリーナのスケール感で、まさに2017年のロックバンドの音として放たれている。さらに“メモリーズ・カスタム”の強靭なバンドサウンドへと続き、荒削りなようでいて素晴らしいバンドアンサンブルを聴かせる。マサムネの高音のシャウト、三輪の切り裂くようなギター、田村の会場中を震わすようなベース、﨑山龍男(Dr)のタイトで力強いドラム──これがロックじゃなかったら何だと言うのだろう。
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)
メンバー紹介のくだりでは、それぞれが少しトークをしていくのだが、中でも田村の言葉が記憶に残る。「スピッツって、曲はわかりやすいけど、歌詞が変とかさ」(ここでマサムネが「何を?」と反応したのが可笑しかった)。「ギタリストはなんであんなルックスなの?とか、ベースの人はなんであんなに不必要な動きをするの?とか、でも俺はそういうイビツなところがロックだと思ってる。そういう意味で、今のロックチャートには入れなくてもいいよ!」と言った。この言葉は本当にそのままスピッツを言い表していると思う。笑いながらちょっと感動的な気持ちにもなる。

終盤はスピッツが紛れもないロックバンドであることを音で証明するような演奏で、ただただ圧倒された。“運命の人”で聴かせるバンドのグルーヴが凄まじくて、さっきの本人のトークそのままに、田村の動きはどんどん激しくなっていった。長きに渡ってサポートを務めるクジヒロコ(key)も含めて、バンドが醸し出す畝りや広がりは、どんなに広い会場でも濃密さを失うことがない。アグレッシブな三輪のギターとマサムネのバッキングギターが絡んで極上のロックンロールを聴かせる“恋する凡人”、シャープなドラミングとそれ自体が歌っているようなベースで思わず体が動いてしまう“けもの道”。 “俺のすべて”に至っては、田村だけでなく、マサムネもハンドマイクでステージを左右へ移動して、高揚感を会場中で共有するような時間だった。そしてラストは、『CYCLE HIT 2006-2017』に収録された新曲“1987→”。この曲こそ、30年目にして今なお熱く胸に潜む彼らの衝動をストレートに表現した楽曲で、『醒めない』で見せたロックへの確信を、原点回帰的に表現してみせた曲。その強烈な余韻を残して本編は終了した。
スピッツ/横浜アリーナ - Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)Photo by 内藤順司(8月24日@横浜アリーナ公演より)
アンコールでマサムネは「すごい楽しいです。ありがとうございました。スピッツ30歳、そして1000回目のアニバーサリー、バンドにとっては通過点だと思うけど、これからもっと精一杯やっていきます」と感謝の言葉を口にし、 『醒めない』収録の“ハチの針”、そして1991年、ごく初期の名曲“恋のうた”でこの日のライブを締めくくった。30年のスピッツを思いながら、その時代ごとの自分にも改めて出会う、そんな2時間半超えのクロニクル。それがただのノスタルジーにならないのは、スピッツが今なお、ロックへの止まない憧憬を持ち続けているからこそに他ならない。後ろ向きな「一区切り」ではなく、確かな未来を予感した、さらなる「ステップ」として、この日のライブは刻み込まれたのだ。これからのスピッツが、またどんなロックを届けてくれるのか、楽しみでしかない。(杉浦美恵)
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