【来日レポ】スタークローラー @ 渋谷チェルシーホテル

【来日レポ】スタークローラー @ 渋谷チェルシーホテル - photo by 古渓一道/Kazumichi Kokeiphoto by 古渓一道/Kazumichi Kokei

話題沸騰中のロックンロール新星、スタークローラーの待望の初来日公演、その記念すべき初日の会場は渋谷のチェルシー・ホテルだった。本来の初日であった7日のO-NEST公演の即完を受けての追加公演だったが、この日も見事にソールドアウト。狭く細長いフロアはギッチギチの超満員で、彼女たちのようなロックンロール・バンドを初体験するには最高のシチュエーションだ。

デイヴ・グロールや元マイ・ケミカル・ロマンスジェラルド・ウェイ、はたまたエルトン・ジョンまで絶賛のスタークローラーは、LA出身の4ピース。彼女たちに惚れ込んだライアン・アダムスがプロデュースを手掛けたデビュー・アルバム『スタークローラー』は、全10曲で28分ちょいという、潔いにも程があるガレージ、メタル、ブルーズ、そしてロックンロールのごった煮アルバムだ。

つまり、持ち曲を全部やっても恐らく30分強のステージにしかならないわけで、果たしてどうなるか……と思って観ていたら、20時20分から始まって21時に終わる約40分のステージとなった。これ以上長引かせることも、これ以上カットすることも罰当たりな、パーフェクトな40分だった。今後の公演に行かれる方はなるべく余裕を持って会場入りしてください。あっという間に終わるけれど、一瞬も見逃せない40分だったから。

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冒頭からノンストップで4曲立て続けにやったところで未だ10分しか経っていなかったのにはさすがに笑ってしまったが、スタークローラーのナンバーは“Used to Know”にしても“Love's Gone Again”にしても2分そこそこの楽曲で、しかも彼女たちはとりわけガレージ調のナンバーではそこに即興やアレンジを入れて膨らませていくことは一切せず、むしろつんのめり気味に走って唐突にフィニッシュするブツ切り&ザク切りの痛快パフォーマンスだ。

そしてどの曲もイントロ・リフが最っっ高にかっこいいのだけれど、その最初の2、3ストロークで楽曲の魅力は8割方語り終えられてしまっているとすら言える。そう、これが彼女たちの現時点でのプレイヤヴィリティの未熟であるのは事実であり、同時にそれは、スタークローラーが普通のバンドがどんなに鍛錬しても手に入らない、天賦のロックンロールの呼吸とカリスマの持ち主の証拠でもあった。

このバンドにさらなる理屈じゃない魅力を与えているのがフロントウーマンのアロウ・デ・ワイルドだ。虚空を睨みつけながら、細く長い手足をぎくしゃくとさせながら、何度も崩れ落ちそうになりながらもシャウトを繰り返す彼女、深紅に染めた髪に加え、ライブが進みに連れが白いタンクトップや手先が赤く染まっていき、最後の頃にはまるで映画『キャリー』のプロムパーティーの惨劇みたいな様相に。どこかホラーでゴシックな彼女の佇まいは強烈にフォトジェニックだ。でも、アロウがリスペクトするオジー・オズボーンのホラー演出と比較すると、アロウのそれは今の生身の彼女と直結した不安定でフラジャイルなものでもある。

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そんなアロウ以外もこのバンドは本当に絵になるメンバーが揃っている。イケメン云々ということとは別に、ロックンロール・バンドの佇まいとしてパーフェクトなのだ。ちなみに“Pussy Tower”などではアロウと共にツイン・ボーカルを務め、バンマス的ポジションで引っ張るギターのヘンリーは、まるで映画『君の名前で僕を呼んで』で大ブレイクした俳優ティモシー・シャラメを彷彿させる線の細い少年で、ギターをギャンギャン縦弾きしながらカモン! と客を煽っても、どこか品の良さが漂ってしまう。

そう、ロックンロール・バンドのある種のステレオタイプを引き受けているスタークローラーだが、バンドの演奏自体はニヒルでもなんでもなくて、非常に真面目にやっている。真面目というか、必死にやっている。

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必死に弾いている、叩いている彼らだが、もちろん上手くはない。“I Love LA”や“Let Her Be”を筆頭に、スタークローラーにとってメタルはバンドを構成する重要な要素のひとつなのだが、 80年代ヘアメタルのようにグリッターで分厚いはずのこれらの曲のリフが、どうにもスカスカなナゲッツ風ガレージ・リフに聴こえてしまうというのが、逆説的に彼らのガレージ・サウンドに「そうするしかない」という必然と説得力を与える結果になっているのが最高だ。スタークローラーはストゥージズやランナウェイズ、ヤー・ヤー・ヤーズを器用にリバイバルさせたのではない。ゴロっと転がり出た歪な原石としての100%のリアルなのだ。

そして、クライマックスの“Train”と“Chicken Woman”が、それまでの一筆書きの短小ガレージから一転、ちりちりと小さな火種が燻り続ける、曖昧さを引きずったブルーズ・チューンだった点に、むしろ彼女たちのこれから先が垣間見えた気がした。(粉川しの)

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〈SETLIST〉

Castaway
Used To Know
Love’ s Gone Again
I Love LA
Ants
Full Of Pride
Let Her Be
Different Angels
Pussy Tower
Train
What I Want
(Encore)
Chicken Woman
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