僕はアリーナ後方で観ていたのだが、終始「コンバンワ!」とか「タノシンデル?」とか「後ろのほうはどう?」とか、常にオーディエンスと一緒に絶頂の風景を目指そうとするエンターテイナー精神は見事としか言いようがなかった。そして最後、実際にすぐそこの通路を4人がすごい勢いで走って移動しているのを目の当たりにした時には、笑いが止まらなかった。この日の彼らはどこまでも自然体で、飾り気も雑念もなく、その意識をただひたすら音楽とオーディエンスに向けていた。グラミー7部門にノミネートされ3部門を制した「世界最高のバンド」=コールドプレイが、だ。少なくとも、ジャパン・ツアー初日となるこの日のさいたまスーパーアリーナ公演を観た人には、そうとしか思えなかったはずだ。
開演時間ジャスト=17:00から、ジョン・ホプキンスfeat.デヴィッド・ロッシによる30分のエレクトロ・アンビエント感満載なオープニング・アクトの後、いよいよ18:06、煌煌と光を放つ花火を手にコールドプレイの4人が登場すると、満員のさいたまスーパーアリーナからは怒号のような大歓声! ツアー初日なので曲順掲載は控えるが、奇跡の名盤『美しき生命』後のツアーということで、当然のことながら“美しき生命”はやるし“天然色の人生”はやるし“ラヴァーズ・イン・ジャパン”はやる。さらに代表曲の数々を加え、ただでさえ1mmたりとも無駄のないコールドプレイの音楽をさらに高純度で結晶させようとするかのようなセットリスト。どこを切ってもノイズや雑念が出てこない……そんな印象のステージだ。
そして何より、クリス・マーティンの全身芸術家っぷりはすごかった。曲によってピアノ/アコギ/エレキ・ギターと楽器を替え、ある時はハンドマイクでステージ狭しと駆け回りコール&レスポンスを煽り、「幸運なことに、僕らはグラミーの栄誉に輝いたんだ。その嬉しさを、トーキョーの君たちにも分けてあげるよ!」と、大観衆をじっくり、確実に巻き込んでいく。彼らの極限まで研ぎ澄まされた音楽は、決して「孤高の音楽」にならない。そのマジックを生んでいるのは、やはりクリスだ。コールドプレイの音楽という「場」に誰1人乗り遅れたり置いていかれたりしないように、クリスは執拗なまでに神経を使い、そのリアクションに「Incredible! Fantastic!」と人一倍悦びを噛み締めていた。
天空に漂う6つのボール状のビジョンと呼応するように、フロアに散らばった大小の風船の数々。それを見て「ヘイ! それ、こっちにやってよ」とオーディエンスに呼びかけ、ステージへと投げられた風船をアコギのヘッドをひと振りして見事に割ってみせるクリス! 中から飛び出す紙吹雪! それらすべてがあまりに鮮やかな瞬間として、観客の脳裏に焼き込まれたに違いない。“美しき生命”を歌い終え、ステージに倒れ込んだクリスを鼓舞するように、オーディエンスの♪オオオーオオーの大合唱が響き渡った――あの瞬間の感動こそが、コールドプレイという音楽の核心だ。そんな実感に満ちた、ツアー初日の最高のひとときだった。(高橋智樹)
1. Life In Technicolor
2. Violet Hill
3. Clocks
4. In My Place
5. Speed Of Sound
6. Yellow
7. Chinese Sleep Chant
8. 42
9. Fix You
10. Strawberry Swing
11. Talk (Dance Version) / God Put On A Smile Upon Your Face
12. The Hardest Part
13. Postcards From Far Away
14. Viva La Vida
15. Lost!
16. Green Eyes
17. Death Will Never Conquer
(Viva Remix)
アンコール1
18. Politik
19. Lovers In Japan
20. Death And All His Friends
アンコール2
21. The Scientist
22. Life In Technicolor 2
(The Escapist)