斉藤和義/日本武道館

斉藤和義/日本武道館
斉藤和義のデビュー25周年を記念したアニバーサリーツアー「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜」が先月から行われていて、東京公演は日本武道館2Days。その2日目の公演を観てきた。アニバーサリーということで、これまでのキャリアをぎゅっと濃縮したような素晴らしいライブであり、改めて、斉藤和義が当初から変わることなく続けてきたこと、そして、変わらない魅力の奥には絶えずブラッシュアップを続けてきたサウンドの変化・進化があったことを見せつけられたライブだった(まだツアーは続いているため、曲名などをすべて明かすのは避けておくけれど、以下、少々のネタバレはあるので、これから100%まっさらな状態でライブに臨みたいという方は、ここまでで読むのをやめておくほうがよいかもしれません)。

斉藤和義/日本武道館
変わらないことといえば、25年の月日を経たのに、相変わらず少年のような天真爛漫さで語られるエロ話というか、どうしてもそういう話をしたくなってしまう性分というか、そもそも、25周年にしてこのツアータイトルである(笑)。これ、ホールライブではたいてい開演前に「ライブツアー○○○○にお越しいただき、ありがとうございます」で始まる注意事項のアナウンスがあるわけで、しかもだいたいは女性の声でアナウンスされるわけで、もちろん今回も、開演10分前くらいに女性がアナウンスしていたのだけれど、きっちり、まったく吹き出すことなく事務的にこのツアータイトルを読み上げる、そのプロフェッショナルに拍手を送りたくなってしまった。

斉藤和義/日本武道館
それはさておき、オープニング曲である。この1曲目には「おおおっ!」と声があがった。初期のソリッドな、あのロックンロールナンバーだ。斉藤自身が奏でるヘヴィなギターリフと、今回のバンドメンバー、真壁陽平(G)の歪んだギターサウンドが絡み合って、初っ端からガツンと一撃くらったような気分にさせられる。真壁に加え、崩場将夫(Key)、山口寛雄(B)、河村吉宏(Dr)というバンドメンバーは、今年、アルバム『Toys Blood Music』をひっさげてのツアーで41都市、47公演をともにまわった仲間である。そのツアーは7月31日に終わったばかりで、そこから1ヶ月も経たないうちに今回のアニバーサリーツアーが始まったこともあって、バンドアンサンブルは大げさでもなんでもなく「完璧」と言ってよいほどのものだった。

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1曲目のいきなりの高揚感を少し落ち着けてくれるように、そのままラフなセッション的なサウンドから入った“Hello! Everybody!”は、肩の力がすっと抜けていくような陽性のエネルギーに満ちたロックンロール(そういえばこれは、斉藤が20周年のタイミングでリリースしたシングルに収録された曲である。5年の月日の早さを思う)。その後も、新旧織り交ぜた選曲で極上のロックサウンドを響かせていくが、初期の歌、少し前の歌など、その歌詞とメロディに耳を傾けていると、そのどれもが、現在の自分に語りかけてくるようで、改めて、彼が作ってきた楽曲の普遍の魅力を思わずにはいられなかった。そして今回も彼はMCで、「楽しんでいってください」ではなく「楽しませてもらいます」と言った。

斉藤和義/日本武道館
この日の斉藤は、何度もメンバーの名前を呼んで紹介した。中盤には、「25周年ということで、メンバーの25年前の写真を持ってきてもらっています」と言って、バンドメンバーたちの、まだ若い、幼い頃の写真が順にスクリーンに映し出されていく。「この頃はまだ童貞ですか?」とか、ここでもまた斉藤らしい問いかけが連発されて思わず頬がゆるむのだが、この趣向には実はけっこうグッときてしまった。なぜなら、25年という月日は斉藤だけのものではなく、それはその時代を生きたすべての人に等しく過ぎた25年であって、それぞれに25年の物語があるということ、そして彼の音楽にはそのやさしい眼差しがあることを改めて実感したからだ。でもそう言われることを本人は嫌がるような気もする。だから、このパートも脱力するほどのエロトークから次の、新曲“カラー”の演奏へとつないだ。しかし、ギターの音色さえも歌っているような心に響く演奏には、やはり彼の中にある偽りない人間らしさとやさしさが溢れていると思った。素晴らしい歌。

斉藤和義/日本武道館
終盤に繰り出される、“ずっと好きだった”や“やさしくなりたい”、“歩いて帰ろう”など、もはや斉藤のライブにおいては鉄板とも言える楽曲にしても、この日の演奏は過去最高と思えるほどに素晴らしかった。25年という月日が磨いた円熟味だけではなく、こうした定番曲が意外なほどにフレッシュなロックンロールとして響く、そのアグレッシブさは、実は年を経るとともに強くなっているような気もするし、それはこのバンドがもたらしたものなのかもしれない。アンコールで披露したあの歌にしても、何度も聴いているはずなのに、そして彼自身も何度だって歌っているはずなのに、そこに惰性は一切感じられない。スクリーンに大映しになる彼の表情は、今そこにある歌にただ向き合っている、それだけのもの。なのに、いや、だからこそ胸を打つ。何度でも。

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いつも飄々としている斉藤が、ラストの曲を演奏し終えた後にかすかにガッツポーズをしたように見えたのは気のせいか? しかしメンバー全員で手を取り合っての挨拶を終えると、またいつもの斉藤らしく、自ら着ているTシャツをめくって客席に向かってチクビを見せつけようとして、笑いを誘う。さらにはメンバーのTシャツもめくろうとして走って逃げられるという、もうほんとに最後まで「らしい」空気のままステージを去っていった。そのゆるさとは裏腹に、見事な演奏と歌が今も耳に残る。これだから、何年経っても斉藤和義のライブに足を運ぶのはやめられないのだ。本当に至福の時間だった。(杉浦美恵)

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