Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo
※以下のテキストでは、演奏曲のタイトルを一部表記しています。ご了承の上、お読みください。

結成5年目でデビュー3年目。現在Mrs. GREEN APPLEは、久々のライブハウスツアー「ゼンジン未到とプロテスト~回帰編~」を行っている。彼らはデビュー前の時期から「ゼンジン未到と○○」というタイトルで自主企画を開催しており、このツアーもそのシリーズの一環。今や幕張メッセ2デイズを即日ソールドアウトさせてしまうほどの人気を獲得したミセスだが、同シリーズを始めた当時の彼らからしてみたらこの日の会場・Zepp Tokyoはかなり大きなハコだったよう。MCでは、藤澤涼架(Key)が「ゼンジンをZeppでできるなんて感慨深い」と言っていたほか、他のメンバーも、開演前、あの頃と似たような緊張感があったのだというふうに話していた。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

9月の幕張ワンマンでは、きらびやかなステージセットやメンバーの衣装、ダンサーの登場など、演出面での華やかさが目立ったが、それに比べると今回のツアーは非常にシンプル。メンバーの恰好は普段着に近く、ステージの装飾は筒状の照明何本かのみ。大森元貴(Vo・G)も「あれ(幕張)は華やかな人たちがやってたじゃないですか。でも今回は限りなく素に近い感じです」というふうに言っていた。ライブにおいて、観客を楽しませることを意識的に行ってきた彼らが、自分たちがまず先に楽しむのだという方向に舵を切ったのは、デビュー以降初めてかもしれない。しかし一人よがりなステージだったわけではなく、バンドが自然体でそこにいるからこそ生まれてくるコミュニケーションもある。この日の“StaRt”のシンガロングはとても温かなものだったし、その他にも印象深い場面がいくつもあったのだ。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

さて、「ゼンジン未到」ということは原点回帰的なライブなのか?と思うかもしれないが、彼らが行ったのはあの頃の焼き直しではない。むしろ「『ENSEMBLE』以降のMrs. GREEN APPLE」を提示してみせるようなライブだった。

まずアレンジ面に触れると、どの曲も「今の自分たちがこの曲を演奏したら」という視点が反映されており、とりわけ初期の頃にリリースされた曲の変貌っぷりには驚かされた。曲名は伏せるが、例えば、アッパーチューンのテンポを落としてバラード化させていたり、声のサンプリングや打ち込みドラム等を取り入れ新たな音像構築を試みていたり、2番以降で大きく展開が変わったり……といった具合だ。耳を澄ませると、それぞれのメンバーが音源とは全然違うフレーズを弾いていることもかなり多く、たくさんの発見がある。がむしゃらに鳴らすしかなかったあの頃とは異なり、バンドとして採れる選択肢が増えたのだということ。全体として「Mrs. GREEN APPLEは如何にして豊かな音楽を鳴らすバンドになったのか」ということを音楽そのもので語るようなステージだった。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

しかし未来にひたすら向かっていくようなテンションだったかと言うとそれもまた違う。この日のライブの質感は、端的に言うと、「このぐらいやらないとエンターテインメントとして成立しない」という理由であのようなライブになった幕張ワンマンからエンターテインメント成分を差し引いたようなもの。要するに本質だけが残ったような印象があり、セットリスト自体も「Mrs. GREENはどうしてこういうバンドになったのか」、「大森元貴はどうしてこのような曲を作るのか」という原点(≒過去)を掘り下げるような内容だったように思う。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

それによって浮き彫りになっていくのは、ものすごい勢いでシーンの階段を駆け上がってきたこのバンドは、魂を削るようにしながら音楽を生み出してきたのだということ。そして、どれだけ華やかな活動をしていようとも拭えない何かがあるのだということ。幕張の時に大森は、自身の悲しみ・苦しみ・切なさ・つらさまでもを曝け出した作品が評価を得ることに対する葛藤を打ち明けていたが、そういう部分が多くの人を惹きつけているのだということもまたひとつの事実である。個人的には「人の素晴らしさを信じたい」と願望の言葉に歌詞を替えた“青と夏”のドキュメンタリー感にドキッとさせられ、「初期からやってるこの曲をバチコーンと轟かせて帰りたいと思います」とあえて原曲に近いアレンジで最後に演奏されたとある曲の響きに胸が熱くなった。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

ツアーはまだ続くため具体的な記述を避けながらにはなってしまったが、以上がZepp Tokyo 2デイズ1日目から読み取れたことである。そういえばこのライブの数日後に新曲“僕のこと”のリリックビデオ・ショートバージョンが公開された。わずか1分の映像からでも十分に伝わってくるあの曲の核心に迫るような感じと、今ミセスが自身の過去・現在・未来を今一度見つめるようなツアーをやっていることは決して無関係でないように思えるが、はたしてどうだろうか。

Mrs. GREEN APPLE/Zepp Tokyo

ツアー「ゼンジン未到とプロテスト~回帰編~」は12月25日(火)、バンドの原点にあたるライブハウス・渋谷CLUB CRAWLでファイナルを迎える。(蜂須賀ちなみ)
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