クリープハイプ/神奈川県民ホール

クリープハイプ/神奈川県民ホール - All photo by 冨田味我All photo by 冨田味我

●セットリスト
1.exダーリン
2.泣き笑い
3.イト
4.一生のお願い
5.炭、酸々
6.禁煙
7.おばけでいいからはやくきて
8.かえるの唄
9.さっきの話
10.グルグル
11.目覚まし時計
12.お引っ越し
13.栞
14.オレンジ
15.百八円の恋
16.私を束ねて
17.社会の窓と同じ構成
18.社会の窓
19.HE IS MINE
20.燃えるごみの日
21.陽
22.イノチミジカシコイセヨオトメ
23.おやすみ泣き声、さよなら歌姫


昨年、新作アルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』をリリースし、その後全国ライブハウスツアーを行ったクリープハイプ。そのツアーの手応えと、さらに「もっと」という思いから、このアルバム曲たちをホール会場でしっかり表現すべく、全国各地で追加公演を行ったのだった。追加公演というよりラウンド2、というよりむしろアルバム曲の世界をしっかり表現しきるための別ツアーであると捉えたほうが良いかもしれない。それくらい、このホールでのツアーは作品が描き出す風景を生々しく伝えるものとなった。もちろん昨年のライブハウスツアーとはセットリストも別もの。改めて、クリープハイプの、そして尾崎世界観(Vo・G)の表現者としての底知れぬ魅力を感じ取った。4月11日、神奈川県民ホールでのライブを観ての感想をまとめておく。

クリープハイプ/神奈川県民ホール

意外なことに1曲目に演奏されたのは“exダーリン”だった。尾崎の弾き語りが美しい音でホールに響き渡っていく。暗めのライトは寂しげな月明かりのようで、夜道をひとり帰っていく孤独感を感じさせる。バンドサウンドへと展開しても、よりその孤独が際立つようで、尾崎の歌声に引き込まれていく。先のライブツアーでは演奏しなかった、まして、新作アルバムの曲でもないこの曲をオープニングにもってきた意味を推し量るのは容易ではないけれど、その後に“泣き笑い”そして“イト”と続く流れを体感するにつけ、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』の持つメランコリーと、“exダーリン”のそれが地続きにあるものだということを実感する。“炭、酸々”もまた、帰り道のブルーを映し出すようなライティングとともに心に染み込んでくる。ホールとはいえごくごくシンプルな演出。ステージには生成りのシンプルなラグが一枚敷かれているだけだ。しかし、そこに様々な風景が、クリープハイプのバンドサウンドとともに立ち現れてくるから不思議だった。

クリープハイプ/神奈川県民ホール

新作から“禁煙”が演奏されると、これまでじっくりと聴き入っていた観客も、徐々にエモーショナルな気持ちへと高まっていくのがわかる。そこに“おばけでいいからはやくきて”を畳み掛けると、完全に「静」から「動」へとシフト。極力明度を抑えた照明の下、《なにより怖いのはこの 1人ぼっちだったんだ》という歌を、その孤独感とは裏腹な小気味良いバンドサウンドで繰り広げる。まさにこの歌の本質を表現するかのようなライブ演奏を体感して、この時点で彼らがホールでのライブを望んだ理由を漠然とだが感じ取った気がした。
そして尾崎は「ツアーでお客さんを見ていてつくづく思うけど、自分たちの身の丈に合ったお客さんが来てくれてるんだなと思う」と、とても「らしい」表現の仕方で、リスナーやファンを評した。「(ライブやフェスは)派手に動けてる人たちだけの場所じゃないから。自分たちもそうだし。それもいいと思えるようなお客さんとして存在していてください」という言葉は、何の虚飾もない「素」の言葉だった。新作が描き出していた、諦念さえも超えたところで鳴るハッピーともサッドとも云い切りがたい楽曲の数々は、そうしたリスナーにこそ必要とされるものだということを、彼らはよくわかっている。楽曲を誰かと共有する喜びよりも、一人で嚙み締める切なさを愛する。そんな自分を好きでも嫌いでもない。そんな「素」の感情がクリープハイプの音楽にはにじむし、だからこそ信頼できる。

新作曲“お引っ越し”は、昨年のライブハウスツアーではセットに組み込まれていなかったが、今回のホールでは、とても素晴らしいバンドアンサンブルで響かせてくれた。長谷川カオナシ(B)の歌うようなベースライン、カントリーソングのような明るさを携える小川幸慈(G)の豊かなギターフレーズ、タイトにビートを刻む小泉拓(Dr)のドラム。イントロからアウトロまでぐいぐいと引き込まれて、この楽曲の持つ切なさが、それに反比例するかのように明るいサウンドで、天気雨のように降り注いでくるようだった。“栞”では、桜色のライトに照らされて、ドライブしていくギターサウンドとともに、尾崎の歌声も力強さを増していく。シンプルだけど強い歌だ。それがそのまま“オレンジ”、“百八円の恋”へと続いて客席も弾けたような熱を帯びるが、このキラーチューンたちがクライマックスへの序章であることを、その後の展開で実感する。カオナシがリードボーカルをとる“私を束ねて”のキレのあるビートは格別で、その後の “社会の窓と同じ構成”〜“社会の窓”の連打では特大シンガロングを呼び起こし、さらに“HE IS MINE”での《セックスしよう》はもちろん完璧。

クリープハイプ/神奈川県民ホール

終盤、「アルバム出してツアーまわったけど、もう一度、今2回目をまわっていて。今回のアルバム(のツアー)は長くやりたいなって思って、こうしてまわっています。アルバムを伝えなきゃなと思ってやればやるほどわかんなくなって、答えが滲んでいく気がします。でもそれでいいと思っていて。また新しい曲も古い曲も何回でも演奏したいなって思っています」という言葉がとても胸に響いた。どんなライブをすれば伝わるのか、どれだけライブをやっても100%の正解にはたどり着けないのかもしれない。けれど、「もっと伝えなきゃ」と思える、それだけのアルバム作品であると、自身とリスナーとがライブを通して共有できたこと、それをもう答えと呼んでいいんじゃないかと思った。そして「大事な曲をやります」と言って披露されたのは“陽”。嬉しさと寂しさとはいつも同じ日常の風景の中にあって、それぞれ別々に存在することなどないことを、この歌は伝えてくれる。それでも明日はやってきて、進んでいかなければいけない。何もなかったように訪れる平日の無常さと有り難さが同時に表現されたこの曲こそ、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』を色濃く表現している楽曲なんじゃないかとも思う。あたたかなバンドサウンドと穏やかな歌声とが楽曲に奥行きを与える。今回のライブで聴けてよかったと思う。

クリープハイプ/神奈川県民ホール

「生まれ変わってもまた クリープハイプのボーカルになりたい」。この夜、尾崎は“イノチミジカシコイセヨオトメ”を、こんな歌詞に替えて歌った。そう断言できるものが、最新アルバムにはあって、そのツアーでも感じ取れて、さらなるホールツアーで確信に変わったのではないだろうか。もちろんその確信は揺るぎない答えというわけではないし、尾崎世界観はまた孤独や、やりきれなさや、苛立ちを抱えたまま音楽と向き合っていくのだろう。けれど、このツアーがバンドにもたらしたものは、今私たちが想像するよりはるかに重要なものとなったのではないか。そう思った瞬間でもあった。
ラストは“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”で、駆け抜けるようなバンドサウンドの余韻を残して終幕。最後に尾崎は「(今日のライブを観て)好きな人に告白してみようかな、みたいな気持ちになった? それもいいけど、ずっと怒ってた人、ムカツク人に『ゆるしてやろうかな』ってなるのもいいよね。オレもさっき、演っててそう思ったよ」と言っていたのが印象的だった。「また必ずどこかで会いましょう。元気でいてください」という言葉の衒いのないやさしさが沁みた。(杉浦美恵)
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