●セットリスト
01. 深淵の揺らぎ(inst.)
02. FAKE
03. Best Dress (新曲)
04. ライムグリーン
05. 壁の1週間 (新曲)
06. luv (新曲)
07. Thanks
『CUT』誌主催によるフリーライブ&トークイベント「CUT NIGHT」が、第6回目を迎えた。今回は、昼と夜の一日2回公演という初の試みだが、いざ蓋を開けてみればいずれも多数の参加応募に恵まれ満員御礼。『CUT』編集長・渋谷陽一による「ロックはどうして時代から逃れられないか」というテーマのもと熱く繰り広げられるトークを経て、こちらも「CUT NIGHT」の重要なレギュラープログラムであるlukiのミニライブが行われた。本稿では、夜公演のライブの模様を中心にレポートしたい。
シンガーソングライターであり映画評論家であり、そしてランナーとしての顔も持つ多彩なlukiだが、つい先頃の1月19日に開催された「第30回 宮古島100kmワイドーマラソン」では9時間32分という自己ベスト記録を叩き出し、なんと100km・女子の部で2位をマークしたというから驚きだ。一方で音楽表現に向き合うときの彼女は、どこまでも繊細で思慮深く、強烈なエモーションを鮮明に描き出すことのできるアーティストである。
筋肉質に引き締まった脚が際立つ衣装でステージに姿を見せたlukiはまず、清らかで夢見心地なバンドサウンドの中から、得意のブルースハープで感情の蠢きを立ち上らせるインスト曲“深淵の揺らぎ(inst.)”を披露。瞬く間に存在感をアピールしてみせる、刺激的なオープニングだ。お馴染みのバンドメンバーは、円山天使(G)、山本哲也(Key)、張替智広(Dr)という信頼感抜群の辣腕プレイヤー陣。人生の中で役割を演じながら自我に迷うナンバー“FAKE”では、ゆったりとしたテンポ感の中にも歌の情緒を後押しする鋭いタッチのビートが織り込まれており、ピアノのアウトロが膨らませる余韻も味わい深い。
挨拶しながらlukiは、渋谷陽一のトークテーマを受けて「ポップミュージックは、その時代に即して変化してゆくのが正義だと、私も思います」と語り、初披露となる新曲“Best Dress”を紹介する。跳ね上がるエレクトリックギターのクリアな音色や、同期パーカッションも含まれたファンキーポップだ。メロウで洒脱なナンバーだが、サビの歌メロが何とも狂おしい。クローゼットの中には過去の記憶が染み付いた服がたくさんあるけれど、これからの自分に相応しいドレスはここにはない。なるほど、自らの手で追い求めるべきポップミュージックを、服になぞらえているわけだ。
音楽プレイリストを聴きながら臨んだという先のマラソンで、登り坂に差し掛かるときに絶妙なタイミングでプレイされたという自身のナンバー“ライムグリーン”。100kmの過程を軽妙な語り口で振り返るさまも楽しいが、その戦略的なレース運びの内容には舌を巻く思いがする。また、ソングライターとしてのlukiは驚くほど多作家で、ライブのたびに新曲を披露するのが常態化しているけれども、世界中のあらゆる社会問題の根底にある「壁」に思いを馳せて届けられた“壁の1週間”は、壁の視点を一人称で歌うという、ユニークかつシリアス、重厚なフォークロックであった。諍いの狭間に立ち続け、目を逸らすことも逃げることもできない悲痛さが胸に迫る。lukiの作家性が爆発した名曲だ。
イベントの来場者に敬意を寄せ、さながら「CUT NIGHT」のテーマ曲のように披露された新曲は“luv”だ。舞い上がるようなディレイギターとドリーミーなキーボードサウンドに彩られながら、触れる者一人一人の個性を渾身の力で肯定する、スケールの大きなロックナンバーである。まさに、「壁」の向こう側にこそ届けられるべき歌だ。そして最後には、目下の最新ミニアルバム『新月とコヨーテ』から、重く辛い過去にも感謝するというタフな知性が横たわった“Thanks”が届けられる。覚醒し、力強く立ち上がってくるようなサウンドも素晴らしい。僅か7曲というセットリストではあったけれども、実にドラマティックで深いテーマが込められたステージであった。
なお、映画評論家・山田ルキ子として『CUT』誌に連載も持つlukiは、この後の渋谷陽一との映画対談コーナーにおいても大車輪の活躍を見せる。前回「CUT NIGHT」で映画『パラサイト 半地下の家族』を激賞していた彼女は、第92回アカデミー賞での最多4部門受賞を受けて我が事のように喜び、今回はドキュメンタリー映画『娘は戦場で生まれた』を推していた。驚異的な知性と好奇心、バイタリティをフル稼働させ、lukiは2020年も次々におもしろいものを見せてくれている。次回「CUT NIGHT」にも、ぜひ注目していてほしい。(小池宏和)