あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜

●7.18 vs. スピッツ

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 内藤 順司photo by 内藤 順司
遂にツアーファイナルとなる、東京公演2日目。開演時間を回り、照明が落ち、ステージ上に演奏の準備に入る面々のシルエットが現れると、大歓声と拍手が会場を包んだ。このツアーの最終公演の対バン相手は、スピッツ。スピッツ自身がベテランから若手まで多彩なアーティストを招く主催イベントを毎年開催していることもあり、様々なアーティストと交流を持っているイメージはあるのだが、それでも、こうして「2マン」という形でスピッツのライブを観ることができるのは、かなり貴重な印象がある。照明がついて、草野マサムネ(Vo・G)、三輪テツヤ(G)、田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)、サポートのクジヒロコ(Key)の5人の姿が照らし出される。観客たちから沸き上がる大きな歓声と期待に対して、言葉ではなくその「音」で応えるように、﨑山の力強いカウントから、ライブが始まる。

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 内藤 順司photo by 内藤 順司
風が体を撫でていく瞬間のような透明な確かさと、豊かさ。その鮮やかなバンドのアンサンブルに身を預けていると、「魔法のようだ」と改めて感じ入る。虚飾はなくナチュラルで、端正だが、激しい。繊細さを感じさせる、その1音1音の重なりには「俺は俺なんだ」という強い意志も静かに宿っているよう──そんな魔法のようなバンドの演奏に、聴いている自分の体の奥底から、むずむずと喜びが、生きることに対しての力が、湧き上がってくるのを感じる。スピッツがいると、自分だけじゃなく、その場にいる人々の心が軽くなっていくのも感じる。スピッツがいると、その空間全体が澄んでいく。こんな形の「迫力」の在り方を見せてくれるロックバンドがいること自体が奇跡だ。イントロから大歓声が起こった“空も飛べるはず”や、昨年リリースされた傑作アルバム『ひみつスタジオ』からの披露となった“美しい鰭”、そしてエネルギーを放射しながらバンドが渾然一体となって爆走するロックチューン“8823”──他にも、あいみょん本人にリクエストを募って選曲されたという、草野自身が「セットリストを決めるとき、曲一覧表にあっても、いつも見て見ぬふりをしていた」と冗談交じりに語っていたほどのレア楽曲も披露。あいみょんとの共演を彩るための、この日だけのセットリストだ。

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 内藤 順司photo by 内藤 順司
中でも、特に曲紹介などもなく、唐突に“君はロックを聴かない”のカバーが披露されたときは、驚きと興奮とあたたかいものが、じんわりと会場を包み込むようだった。その演奏が終わると、大歓声の中、草野と三輪と田村は「緊張したね~」「もう、これでライブ終わっていいよ」などと話している。このカバーについては「あいみょんを驚かせたいから秘密にしておいてほしい」と周りから言われていたそうで、セットリストには「あれ」と記されていたらしい。草野は「“君はロックを聴かない”の歌詞は、男子の気持ちをわかっていてすごいよね。自分みたいな昭和男子が歌うとしっくりくるんじゃないかと思ってた」と笑いながら語っていた。

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 内藤 順司photo by 内藤 順司
草野は、このツアーに招かれた感謝を伝えながら「バンドをやってきてよかったなと思います」と告げた。さらにこう続ける。「スピッツ、結構長くやっているんですけど、『こんなに地味なやつがステージに立つべきなのかな?』と未だに思うことがあるんです。でも、あいみょんのような若いアーティストがリスペクトを伝えてくれると、『ああ、俺、ここにいていいんだ』という気持ちになります。自信を持っていいんだなって、まだまだ続けるためのエネルギーを今日、もらった気がします」──あいみょんが、憧れも尊敬も何もかも、きっとあらゆる想いを詰め込んで送ったであろうラブ・コールを、真っ直ぐに受け止めるスピッツ。何かを真っ直ぐに受け止めることは、それ自体が相手へのひとつのラブ・コールになるということを、スピッツに教えられた。

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 内藤 順司photo by 内藤 順司


この対バンツアーの最後を飾る、あいみょんのステージ。歓声に包まれながら現れたあいみょんは、前日の衣装は青のセットアップだったが、この日は赤色のTシャツを纏ったよりカジュアルな雰囲気で、再び6人のサポートメンバーと共にステージに立つ。ライブは前日同様“ジェニファー”で幕を開けた。揺れ動くふたりの関係性の、相手を想う一方の視点を歌っているように感じられる“ジェニファー”の歌詞は、まさに「ラブ・コール」と名付けられたこのライブに相応しい。この歌にもまた、新しい物語が付与されているように感じる。

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 永峰拓也photo by 永峰拓也
続く、どっしりとしたアンサンブルから美しさや儚さが溢れる“桜が降る夜は”の演奏を終えると、「大好きな大好きな大好きなスピッツとの初めての2マンライブ、ありがとうございます!」と、この日を迎えた感慨を言葉にする。「各公演大好きなアーティストさんとやらせてもらいましたが、未だに私が青春を彩られ続けている、大好きなスピッツと一緒に……しかも、私が主催やねん」と、どうしようもなく想いが溢れてしまう!という雰囲気のあいみょん。彼女がスピッツの音楽を強く愛し続けていることはファンにはお馴染みだ。この日は舞台袖でスピッツのライブをフルで観ていたという。客席から飛んできたと思しき「何回泣いた?」という質問には「1回泣いた(笑)。1回、大量に泣いた」と返す。でも「感動してばかりもいられない」と、自分で自分の頬を叩くように「私たちもガチンコでいきます」と宣言すると、パワフルな演奏で“愛を伝えたいだとか”がはじまる。その躍動感溢れる演奏に観客たちの手拍子が加わり、会場の熱が高まっていく。

“満月の夜なら”、“ノット・オーケー”と立て続けに曲を披露すると、この日も「今日はお仕事終わり?」「大学行ってから来たの? 偉いなあ」と、観客たちとお喋りをするようなMC。「今日、楽屋に入ったら『スピッツ』と書いてあって……いつも本番前は廊下でふざけているのに、今日はドキドキしすぎて、ずっと楽屋から出れなかった」と、いつもと違った本番前の緊張も語った。そして「この対バンツアーではたくさんコラボをさせてもらったり、歌わせてもらったりもしました。こういう機会がないと私は他のアーティストの曲をカバーする機会がなくて。対バンツアーならではだなと思います。……というわけで、ライブで初めてスピッツの曲をカバーしたいと思います」と告げると、客席からは大きな拍手がそれに応える。「楽しみながら聴いてもらえたら」という言葉に続き披露されたのは、“魔法のコトバ”。この名曲を、そっと大切な宝物に触るように歌う、あいみょん。追いかけていた歌に、歌いながら追いついていく――そんな光景が思い浮かぶような、愛おしく柔らかなカバーだった。

続けて披露された“裸の心”では、暗闇を照らす光のような眩い照明が会場を照らし、その輝きによって私のいる場所からステージ上はほとんど見えないほどだった。だがそれゆえに、会場全体に響き渡る、命の震えそのもののようなあいみょんの歌声のすさまじさを深く感じた。“君はロックを聴かない”では、客席からの合唱も起こる。この日はスピッツもあいみょんも観客たちもこの曲を歌ったということだ。演奏後、あいみょんはスピッツによる同曲のカバーの驚きと喜びと共に、“君はロックを聴かない”が生まれたときのエピソードを語った。「“君はロックを聴かない”は、上京1年目くらいのときにスピッツの“醒めない”を聴いて書いたんです。“醒めない”を聴いて、みぞおちから燃え上がったのよね。なので“君はロックを聴かない”は、“醒めない”という曲、そしてアルバムがなければ生まれていなかったと思います。……私はひたすら、この曲を歌い続けたいなと思います」

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 永峰拓也photo by 永峰拓也
性急なビートと推進力のあるベース、ソリッドなギターと鍵盤が絡み合う“鯉”をエネルギッシュなアンサンブルで届けると、“貴方解剖純愛歌 ~死ね~”ではあいみょんの呼び掛けに応えるように観客たちも声を合わせる。そして“マリーゴールド”を威風堂々とした演奏で披露し、ライブはラストスパートを迎える。「“君はロックを聴かない”ができたとき、『これでシンガーソングライターとしてやっていけるかも』と思いました。そんな曲をマサムネさんの声で、スピッツの皆さんの演奏で聴くことができて幸せです。スピッツは私の醒めない夢なんです。ずっとスピッツに夢を抱いて、憧れ続けて……大好きなアーティストです。スピッツの皆さんありがとうございました!」と感謝を伝えると、このあまりに特別な夜を共に過ごした観客たちにも「ありがとう」を届けるように、“GOOD NIGHT BABY”を披露。観客たちの手拍子にも彩られたこの曲の演奏の終わりに、あいみょんは「スピッツ大好きー!」と叫んだ。

すべての演奏が終わると、あいみょんはステージを降り、観客たちと目と目を合わせるようにアリーナを歩きながらピックを客席に投げていく。「これでシンガーソングライターになってください」なんて笑って言いながら、観客にピックを手渡したりもする。こんなにもフラットな佇まいで、距離を抱きしめ、境界線を歩いていくアーティストだから生み出すことができる幸福な夜であり、幸福なツアー。5年ぶりとなるあいみょん主催の対バンツアー「AIMYON vs TOUR 2024 “ラブ・コール2”」は、こうして幕を下ろした。(天野史彬)

あいみょんがsumika・スピッツと奏でた、愛と出会いの夜──対バンツアー「ラブ・コール2」全公演レポート〜Part4・東京編〜 - photo by 永峰拓也photo by 永峰拓也

AIMYON vs TOUR “ラブ・コール2”
2024.7.17&7.18 東京 ガーデンシアター

●セットリスト(7.17)
sumika

01. Lovers
02. Starting Over
03. 1.2.3..4.5.6
04. マイリッチサマーブルース
05. 初恋が泣いている
06. ふっかつのじゅもん
07. MAGIC
08. Babel
09. Summer Vacation
10. 卒業
11. 「伝⾔歌」
12. 運命

あいみょん
01. ジェニファー
02. 桜が降る夜は
03. 愛を伝えたいだとか
04. 満月の夜なら
05. ノット・オーケー
06. マリーゴールド
07. 愛の花
08. 会いに行くのに
09. 朝陽
10. 貴方解剖純愛歌 ~死ね〜
11. 夢追いベンガル
12. GOOD NIGHT BABY

●セットリスト(7.18)
スピッツ
セットリストは非公開です

あいみょん
01. ジェニファー
02. 桜が降る夜は
03. 愛を伝えたいだとか
04. 満月の夜なら
05. ノット・オーケー
06. 魔法のコトバ (スピッツ)
07. 裸の心
08. 会いに行くのに
09. 君はロックを聴かない
10. 鯉
11. 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
12. マリーゴールド
13. GOOD NIGHT BABY


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