ジョン・レジェンド @ SHIBUYA-AX

2年前のSPRINGROOVEに合わせて行われた単独公演は今回と同じSHIBUYA-AX。さらにその前年の来日公演はブルーノート東京だったわけで、21世紀米国きってのトップ・ソウル・シンガーであるジョン・レジェンドをこれぐらいのサイズの会場で観ることが出来るというのは、まったく日本のファンは幸運に恵まれている。或いは、ジョン自身が希望していることなのだろうか。とにかく、昨年のザ・ルーツとのコラボレーションで話題を呼んだ作品『ウェイク・アップ!』の楽曲も盛り込まれることが事前にアナウンスされていた今回の一夜限りのパフォーマンス、僕も凄く楽しみにしていた。

のだが、満場の喝采に包まれて登場した黒のジャケット+ブラック・ジーンズ+サングラスという装いのジョンが最初に歌い出したのは、なんとアデルの“ローリング・イン・ザ・ディープ”カバーである。いきなり度肝を抜かれた。4つ打ちのキックのみに乗せて高らかにその歌声を響かせる。これ、3月にジョンが自身のSOUNDCLOUDでフリー配信(ダウンロードも可)したばかりのア・カペラ・カバーなのだが、なかなか凄いことになっているのでぜひ聴いてみて欲しい。あーびっくりした。

「ワッツ・アップ、トーキオー!?」と一声かけながらグランド・ピアノに向かい、女性コーラス3人を含むバンドと『ウェイク・アップ!』に収められたカーティス・メイフィールド作の“ハード・タイムス”へ。立ち上がって今度はスタンド・マイクでデビュー曲“ユースト・トゥ・ラヴ・ユー”と、ファンの喜ぶツボを知り尽くしたかのようなステージ進行でパフォーマンスを展開してゆく。荒ぶるわけでもなければ派手なアクションを見せるわけでもないのに、歌の表現力と僅かな一挙手一投足でオーディエンスを掌握してゆくさまがやはりトップ・スターだ。“イッツ・オーヴァー”は、マイケル・ジャクソンの“リメンバー・ザ・タイム”のフックを盛り込む追悼プレイ。王冠を被ったマジック・ジョンソンと、見目麗しいイマン(現デヴィッド・ボウイの奥さん)が出ていた原曲のクリップが思い起こされる。

さらには、昨年のカニエ世紀の大傑作アルバム『マイ・ビューティフル・ダーク・トゥイステッド・ファンタジー』における壮絶なクライマックスの一端を担っていたナンバー“ブレイム・ゲーム”だ。あのピアノのフレーズを自ら奏でながら、悲しいメロディを歌い上げてゆく。もちろんラップ・パートはないが、ここでのドラマーはカニエのビートを凌ぐかのような、ステッパーズ風のもの凄い符割のタイトなビートを刻んでいた。

今回、僕が日本人として一番聴きたかったのは、『ウェイク・アップ!』のリード曲でもあった“ウェイク・アップ・エヴリバディ”だった。イントロのハープが奏でられるような美しいピアノをジョンがしっかり再現し、じっくりと力強くプレイされる。女性コーラスのリフレインするフレーズも加えられて、シンガロングを誘うのだった。うおおお、泣きそうだ。ありがとうジョン。続くメンフィス・ソウル風の古めかしいバラード“スロウ・ダンス”では「そばにおいでよ。スロウ・ダンスを踊ろう」というオーディエンスへの呼びかけで、幸運な女性オーディエンスを1人ステージに上げてしまうジョン得意のファン・サービスへ。演奏に合わせてムードいっぱいにチークを踊り、彼女の前に跪いて歌う。良かったですねユミコさん。今にも卒倒するんじゃないかという喜びようだったけれど。

メロウなファンキー・ソウルからパワフルなナンバーまで、カニエ作の“ナンバー・ワン”では高く人差し指をかざし、来るニュー・アルバム(カニエと再びタッグを組むと報じられている)に収録される可能性もある新曲“ドリームス”までが繰り出された。余計なものは何もない、ただ歌、そして演奏、というパフォーマンスが、それだけで完璧なエンターテインメントを形作っていた。“グッド・モーニング”で美しいファルセットを聴かせた後の「君のためなら僕は必ず変わることができるよ」という台詞を挟んでプレイされる“アイ・キャン・チェンジ”は、ビートルズの“アイ・ウォント・ユー”へと繋ぐパフォーマンス。バンドは、あのアウトロの迫力のサウンドをしっかり再現してみせるのだった。

“ディス・タイム”から始まる至高のソウル・バラード・メドレーを経て、本編ラストはヒット曲“グリーン・ライト”。暗闇を抜けて辿り着いたこの光景が感動的だ。シンセ・ベースの鳴らされるダンサブルな展開を見せたこの曲の中で、ジョンはピアノの上に乗り上がってオーディエンスを煽っていた。黒のタンクトップ姿で再登場を果たしたアンコールでは、まずピアノの弾き語りによる名曲“オーディナリー・ピープル”でシンガロングを求め、そしてバンド演奏のダイナミックな“ステイ・ウィズ・ユー”で大団円を迎える。ライブならではの驚くべき演奏をいくつも絡めながら、きっちりジョン自身の世界観で纏め上げたパフォーマンスは実に素晴らしいものだった。

なお、今回の来日公演は一夜限りのものではあったが、7月にはWOWOWでこの日のパフォーマンスの模様が放送されるそうだ。惜しくも参加することが出来なかったファンは、ぜひその機会を楽しみにしていて欲しい。(小池宏和)

セット・リスト
1:Rolling in the Deep
2:Hard Times
3:Used to Love U
4:Alright
5:It's Over/Remenber the Time
6:Let's Get Lifted
7:Blame Game
8:Wake Up Everybody
9:Slow Dance
10:P.D.A.(We Just Don't Care)
11:Number One
12:Save Room
13:Dreams
14:Good Morning
15:I Can Change~I Want You (She's So Heavy)
16:Everybody Knows
17:This Time~I Love,You Love
~Adore~So High
18:Green Light
EN1:Ordinary People
EN2:Stay With You
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