ジャックス・マネキン @ 渋谷クラブクアトロ

とても暖かいヴァイブに満ち溢れたステージだった。アンドリュー・マクマホンのソロ・プロジェクトであるジャックス・マネキン。昨年はプロモ来日を果たしているものの、ツアーとしては3年ぶり3度目となる。今回レポートするのは東京・渋谷クラブクアトロ2デイズの2日目の模様で、14日には大阪・梅田AKASOにてパフォーマンスが行われる予定になっている。そちらに参加予定の方は、以下セット・リスト含むネタバレにどうぞご注意を。

ステージ中央にキーボードが配置された、4ピースのバンド・セット。詰めかけたオーディエンスと一緒になって拍手をしながら満面の笑顔を見せて登場したアンドリューは、力強いバンド演奏と共にピアノのリフを繰り出し、まずは昨秋発表した3作目のアルバム『ピープル・アンド・シングス』から“リリース・ミー”を披露。流麗な美メロとエモーショナルな歌唱を武器に、困難に立ち向かおうとするアンドリュー節が全開だ。2曲目の“ブラッドショット”ではさっそく、ハンド・マイクでステージ下に降りてオーディエンスを煽り立ててしまう。かと思えば物悲しいシンセ・フレーズを絡めソウルフルな楽曲に彩りを加えてみせる、現代のピアノ・マンである。

「トーキョーで2回もライヴが出来て最高だよ。ゲンキ? オーケー、ジャックス・マネキンには3枚のアルバムがあるから、それだけセットも長くなるよ。いいかい?」と歓声を誘い、その言葉通りにデビュー・アルバムから“ホリデイ・フロム・リアル”と冒頭3曲で3枚のアルバムそれぞれから楽曲を披露する形に。そして、バディ・ホリーの墓を目指し車を走らせながら芯の強いメロディで望郷の念を歌う“アメリア・ジーン”。更には4つ打ちのキックに乗せて沸々とドラマティックに展開する“スピニング”と、荒ぶるわけでもないのに楽曲の力だけでステージの熱量が増してゆく。何しろフロアでは、その間ずっとハンド・クラップが鳴り止まないのだ。

「カンパイ!」と音頭を取るアンドリュー。「日本のドリンクにもトライするんだ。オイシイ?」とギタリストのボビー・ローことボビー・アンダーソンにも声をかける(ボビー・ローはその後しばらくすると、かなりいい感じに酔いが回っていた様子だった)。メンバーと共に積極的にオーディエンスを巻き込んでステージを楽しもうとする姿勢と、シリアスでエモーショナルな、それゆえにメロディが気の遠のくほどに美しく研ぎ澄まされる演奏のバランスが素晴らしい。ボビー・ローの玄妙なギター・フレーズがリードする“レスキュード”、一転してダイナミックなサウンドに包み込まれる“ダーク・ブルー”、“マイ・レーシング・ソウツ”。と、実力派揃いのバンド・メンバーに寄せる信頼感があるからか、アンドリューはとても伸び伸びとプレイしているように見える。

「昨年、日本を襲った出来事には、本当に心を痛めているよ。でも、困難に正面から向き合ってストラグルしている君たち日本人を見て、僕たちは大きな力を貰っているんだ。どうもありがとう。次にプレイする曲は、僕自身のストラグルの歌だよ」。アンドリューはそう語って、“スウィム”を歌った。《ただ頭を上げて、泳げ》。メッセージというよりもそれは、アンドリューが語った通りに「僕自身のストラグルの歌」にしか過ぎないのかも知れない。しかし、他人事であるはずの思いが共有されるという、ポップ・ミュージックの魔法が、そこには確かにあった。

00年代初頭にエモの名門レーベルDrive-Thruからのリリースで活躍したバンド、サムシング・コーポレイトのヴォーカリスト兼キーボード奏者だったアンドリューは、ツアーで疲弊したバンドの休止に伴ってジャックス・マネキンを始動させた。それは当初、彼自身の癒しの創作であり、極めてプライヴェートな活動だったというのは有名な話だ。マーケットを意識しない、自分自身にとって最も効果的なメロディと歌を紡ぎ出すということ。同時期の難病の発症と克服という経験も作品に反映され、そして不思議なことに、ジャックス・マネキンの楽曲群は多くの人々に支持されるようになった。

奇を衒ったところがまるでない、真にピュアで美しいメロディ。予定調和と奇跡の境目は一体どこにあるのか、僕はジャックス・マネキンを聴くたびに分からなくなり、ただその響きに身を委ねたくなる。息を呑むほどに美しいピアノの旋律がたなびき、高らかに歌われる“僕の生きる証(The Resolution)”。今回の公演でひとつ感じられたのは、アンドリューの迸るエモーショナルな歌唱、つまり言葉の熱とメロディとの間に、まったく誤差が感じられないということだった。書いてみると我ながら馬鹿みたいな感想だが、でもこれって手法ではない、「エモ」の本質とは言えないだろうか。

“ザ・ミックス・テープ”からの本編終盤は至福の時間だった。音源よりも遥かにライヴ感を帯びた“エイミー、アイ”。「またすぐここに戻ってきたいぐらいだよ! イッショニ、ウタッテ!」と大シンガロングを巻き起こしたビート・ポップ・ナンバー“ラ・ラ・ライ”。そしてドラマティックな展開にフロアが跳ねる“ブルーズド”でフィニッシュする。間を置かずに再登場したアンドリューは、弾き語りスタイルで切々と歌い始める“ケイヴス”の後、特別にサムシング・コーポレイトの自作曲である“ミー・アンド・ザ・ムーン”もプレイするというサービス。この味のあるバンドで聴けるのがおもしろい。アンコールの最後には組曲のように展開する“MFEO”を詰め込み、あっという間の1時間半を駆け抜けた。

真っすぐに届く歌と素晴らしい演奏。言葉の壁を軽々と越えるコミュニケーション。洋楽バンドを聴き始めた頃のドキドキワクワクする気持ちを、思い出させてくれるステージだった。ジャックス・マネキン=アンドリュー・マクマホンは、いつでもそんな場所を提供してくれる表現者であって欲しいと願う。(小池宏和)

セット・リスト
01:Release Me
02:Bloodshot
03:Holiday From Real
04:Amelia Jean
05:Spinning
06:Rescued
07:Dark Blue
08:My Racing Thoughts
09:Swim
10:Television
11:The Resolution
12:Casting Lines
13:The Mixed Tape
14:Amy,I
15:La La Lie
16:Bruised

encore
17:Caves
18:Me And The Moon
19:MFEO (pt.1- Made For Each Other~pt.2 - You Can Breathe)
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