TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂

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TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂
冒頭2曲が終わったところで一息つく様子になると、客席のあちこちから「おめでとう!」「雨、上がったよ!」等の声が上がり、そのまま大きな拍手に繋がっていく。そう、この日は初夏から始まっている18本の全国ツアーファイナルという以上に、彼等のデビュー15周年を祝う特別な意味合いを持つ夜だった。

彼等がシングル『Raspberry』でメジャー・デビューしたのは1997年の7月21日で、まさに15年前の同じ日のこと。そんなタイミングで、ツアーファイナルに(意外にも初の)ロック伝説の地・日比谷野音ワンマンがブッキングされたという巡り合わせもさることながら、つい3日前には新たなベスト盤がリリース、そしてチケットはソールドアウトとなり急遽立ち見も追加発売されるなど、開演前から祝賀ムードに満ち溢れていた場内。そんな様子を察したかのように、朝から断続的に降っては止みを繰り返していた雨も開演する頃にはすっかり影を潜めるなど、ほとんど盤石ともいえる舞台が整った中、3人はフォーマルなス―ツ姿で登場。オーディエンスの思い入れに対し、丁寧そして切実に応える大人なライヴを見せた、この日のTRICERATOPSだった。

まずは、オープニングに“GOING TO THE MOON”、続いて“I GO WILD”とアッパーサイドの代表曲からスタートした、この日のライヴ。挨拶代わりに相応しい選曲で場内を沸かせ、「ありがとう!よく来てくれたね!」と満面の笑みで語りかける和田。まずは場内の気持ちを全身で受け止め、感謝の意を表す3人の姿は実に晴れやかだ。しかしながら続けて「僕ら15歳です。昔だったら、ここでロックンロールを立て続けにやったかもしれないけれど、もう大人なので(笑)、今日はロマンティックに攻めたい。だからみんなも、ロマンティックなダンシングで返して下さい」と語りかけていた和田。というわけで、この日の前半メニューはデビュー以来の彼等の本懐のひとつである、洋楽的なグルーヴをベースにしながらもそこにメロディアスなヴォーカルをハイブリッドさせた、ミディアムな曲がメイン。最初の挨拶に引き続き登場したのは、深夜のやるせない風景を描いた大人目線のラヴソング“シラフの月”、そしてふつふつとした想いを敢えて胸に秘めた歌詞と3者によるハーモニーが美しくも狂おしい“if”と、「ロックバンドが奏でるミディアム曲」というこだわりの楽曲が続いていく。曲が終わった後に見せるメンバーのお時儀も実に紳士的な丁寧さに満ちたもので、スーツ姿も相俟って場内のムードも俄然しっとりとしたものに。それでも、唐突に初期のスピードナンバー“Silly Scandals”や、へヴィーロック的なディスコチューン“FEVER”などを挟み込み、多彩な音楽ファクターを別のアングルから見せて行く場面も忘れず、うまく緩急をつけた流れで前半を進めていく。

TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂
続いての、アコ―スティックに持ち替え椅子に座ってのアンプラグド・コーナーでは、デビュー前に遡った、ちょっと長い話も。シングル“Raspberry”でメジャー・デビューすることが決まった時、実は彼等はこの曲を1stシングルにすることに反対だったそうで、今となってはスタッフの意見に従ってよかったなとは思っているものの、当時はあれこれ代替案を考えた、という話を開陳。そんな候補曲として挙がり、ジャケットデザインまで考えた上で改めてスタッフにプレゼンしたものの、「あっさり却下されました(笑)」(和田)といういわくつきの楽曲“プレゼント”を、1stアルバム収録時とは違う、アコースティックの新アレンジで披露するなど、ここは15周年らしい話を交え今日の特別感を盛りたてる。続いて「今日は日比谷公園でのライヴだから、公園にまつわる曲を」と、今度は近年の楽曲“Walk In The Park”を登場させ、新旧交えたエピソードでオーディエンスとの密なコミュニヶ―ションを大切にしながら、じっくりと15年という時間を共有していく。そんな進行と暗闇が降りてくるタイミングもうまく合致し、彼等の言う通り、なかなかロマンティックな流れで前半はしっとりと経過していく。

そして、完全に夜となった頃合いを見計らって、楽器をエレクトリックに戻したところからは、イルミネーションのように目映い照明が一斉に点灯され、場の空気を一変させる。ここからは、自由自在のインタ―プレイを誇るライヴバンドとして、ヒートアップした姿を惜しみなく披露する時間だ。まずは徐々に加速していくテンポ感が次なる章への期待感を募らせていく“Fly Away”で後半戦への空気を作り、続いてへヴィーなギターリフもねちっこい初期の重要レパートリー“MIRROR”へなだれ込んでいく。彼等の持ち味のひとつであるブルース・テイストを全開にしたこの曲は、本来の尺が終了してからのインプロビゼーションが聴きどころで、情念の迸りを示すかのように真っ赤に豹変したライトの中、和田がエピフォンのギターを手にステージ上を左右目一杯に横断しながら、どんどん高まっていくソロを展開。それを焚きつけるリズム隊の応酬も一層太さと重さを増していく勇ましさで、前半とは打って変わったステージへと豹変。たっぷり弾きまくった和田が下手にはけると、そこからさらに林&吉田のふたりによるベースソロとドラムソロの複合体という意表を突いた楽曲が登場(セットリストによると曲名は“NEW HAYASHI & YOSHIFUMI GROOVE!!”)。畳みかけるようなファンキーグルーヴでさらに熱いプレイヤー魂を披露し、すっかり夜が訪れた野音をダンスフロアに変えていく。

TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂
場内を一気に盛りたてたところで、“SHORT HAIR”“Jewel”と新旧織り交ぜたスピードナンバーでさらに攻めにかかる彼等。そして本編ラストに登場したのは、今やTRICERATOPSのアンセムともいえる骨太なギターリフとキャッチーなコーラスを重ね合わせた“ROCK MUSIC”。リフを繰り返し爪弾きながら「今んとこ決めてある、僕はやめないってね」と不屈の闘志をハッキリと歌う和田の目線も不敵なら、そこを林・吉田の2人がタイトなビートでバックアップしていく図式は実にトライセラ。そんな光景を演出する激しいバックライトの点滅も雄々しく、ロックスター然とした姿を見せつける3人の凛々しさも一層加速していく。ギターリフ、リズム、メッセージ、そのどれもがロック王道の輝きを標榜した、ロックという音楽への深い愛情を形にしたこの曲で、再度TRICERATOPSの本質を確認しながら、同時に場内をダンスと合唱で埋め尽くすという大団円で、彼等は15周年の晴れの舞台を堂々と締め括っていった(ところで、この曲のお楽しみとして、中間部分で誰もが知るロック・クラシックのワン・フレーズがいろいろ挿入されるという趣向があるのですが、この日はビートルズ“デイ・トリッパー”→ザ・ローリング・ストーンズ“サティスファクション” →スティーヴィー・ワンダー“迷信” →エアロスミス“ウォーク・ディス・ウェイ”→クイーン“ボヘミアン・ラプソディ”<オペラコーラス後のギター・オ―ケストレーション部分>という楽曲達が、1コーラスずつ盛りこまれました)。

TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂
アンコールで再び登場した彼等は、まず「今日はロマンティックな夜をありがとう。なので、曲で返したいと思います」と語り、時代は変わっても常に挑戦者であろうとすることを静かに、しかし強く歌うメロウナンバー“僕らの一歩”をしっとりと演奏。場内は開演時の祝賀感に改めて立ち返ったかのような、安堵の空気に包まれる。多くのオーディエンスの胸に万感の思いが去来していたであろう、そんな中、改めて真摯な口調で和田は語りかける。「今日は特別な日なので、特別な曲をやろうと思います。15年前の今日、僕等はこの曲で歴史を歩み始めました。みんな、歴史の一部になってくれてありがとう!そして、歴史はまだまだ続きます!」と叫んで始まったのは、言わずもがなのメジャー・デビュー曲“Raspberry”。ディスコティックな四つ打ちのリズム、そしてタイトに引き締まったバンドサウンドという曲想を難なく成立させてしまったこの曲は、1997年当時、新しい世代による日本のロックの誕生!とひときわ注目を浴びたものだが、そんな感傷に浸らせる暇もなく場内をダンスロックで一気に満たして行く光景は、デビュー時と変わらない、もしかしたら往時以上のロマンをロックに見出してしまった人間の業のようなものさえ感じてしまう、それはそれは熱い演奏だった。

そんな感慨をさらにフォローアップするかのように、ダブルアンコールで演奏されたのは“トランスフォーマー”。「自分を変えることでしか周りは変えられない」「記憶の中の少年と別れを交わしたトランスフォーマー」と、改めて闘争心を歌った楽曲で最後の最後を締めくくった彼等。今なおロックの将来に夢を描くフロンティアであることをアピールして終了したライヴは、気がついてみれば15周年という感傷なぞほとんど残さない、爽快なまでに今現在のTRICERATOPSを顕わにした一夜だった。(小池清彦)

TRICERATOPS @ 日比谷野外大音楽堂
セットリスト

1 GOING TO THE MOON
2 I GO WILD
3 シラフの月
4 if
5 MILK & SUGAR
6 Siily Scandals
7 FEVER
8 プレゼント
9 Walk In The Park
10 仲直り
11 Fly Away
12 MIRROR w/improvisation
13 NEW HAYASHI & YOSHIFUMI GROOVE!!
14 SHORT HAIR
15 Jewel
16 ROCK MUSIC ~メドレー~

ENCORE
1 僕らの一歩
2 Raspberry

ENCORE 2
1 トランスフォーマー
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