NATSUMEN @ 渋谷クラブクアトロ

NATSUMEN @ 渋谷クラブクアトロ - NATSUMENNATSUMEN
恐ろしかった。仕事上たくさんのライブを観る機会に恵まれているし、観ていて「すごい!」とか「ヤバい!」とか思うことは多々あるが、この日の演奏を観て思ったのは「恐ろしい」だった。それは別に、A×S×Eが事あるごとに苛立ったように暴れ回ってギターぶん回したりマイク・スタンドなぎ倒したりしていて「こっちまで巻き込まれるんじゃないか」と思ったから――では当然ない。恐ろしかったのは、音。A×S×Eのギターはもちろん、ブラス・セクションもリズムも鍵盤も、楽曲という名のぎりぎりの統制を保ちながら、どのパートをとっても、1音1音が聴く者の喉元食い破りそうな獰猛そのものの衝動を孕んでいたからだ。

もはや世界に誇りたいハードコア・インスト・フリー・ジャズ・ロック突然変異種、NATSUMEN。2006年10月21日のイベント出演をキャンセル、そのまま活動停止状態になっていた彼ら8人が、ちょうど2年後の今日、タワーレコード限定の特別編集盤『ONExMORExSUMMERxSHIT!!!』リリース&レコ発ライブで復活! ということで、渋谷クラブクアトロは開演前から、それこそフジ・ロックの山奥のフィールド・オブ・ヘブンあたりが超満員になったような、異様な熱気があふれ返っている。

20:11、いよいよメンバー登場! 休止前と同じくギター/ベース/ドラム/鍵盤/ブラス・セクションの3人、という楽器構成だが、ステージにいるのはA×S×E、KO1こと蔦谷好位置はじめ7人。BOAT時代からのA×S×Eの相方であり紅一点のギター=AINちゃんの姿がない。が、ギター1本になった分だけ逆に、A×S×Eのギターの「何やらかすかわからない獰猛さ」が天井知らずにUPしている。

7人は時にダイナミックな異形のリフやキメを叩きつけ、時に5拍子系のリズムと8ビートが絡み合ったかと思ったら7拍子→3拍子と次々にリズムを変え、時にブラス・サウンドがフリーキーに不穏さを煽り、そのブラスとギターが時に“Natsu no Mujina”などでは一体となって怒濤のようなぶっとい旋律を奏でてみせたり……と、音の衝撃映像集のようなグルーヴが繰り広げられていく。異常に曲数の少ないセットリストを見ればおわかりのように、1曲あたりの尺は長いのだが、彼らの緊迫したアンサンブルはそれを微塵も感じさせることはない。

たとえて言うなら、キング・クリムゾンの『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』『レッド』期であったり、イエスの『リレイヤー』期であったり……プログレッシブ・ロックが構築美を極めた後に、ロックンロールとはまったく別種のグルーヴへ向かっていた季節のような、フリーキーで背徳的な疾走感。その妖しく危うい魅力をNATSUMENは、ハード・ロックもメタルもグランジも通過した耳と感性で再び現代に蘇らせようとしている。かどうかは知らないが、少なくとも僕にはそう見えた。そして感激した。

A×S×Eがいちいちフロアに酒のボトルをかざしてニヤリとしてみせる以外は、ほぼMCなしで本編をやりきった7人。アンコールで再び登場したA×S×E、「ありがとー! のってるかー! 2階席! のってるかー! ……久しぶりだから、よくわかんねえや」と、照れくさそうにスタジアム・バンド風のMCをかましてみせる。最後は“Newsummerboy”。6拍子の人力ドラムンベース風のビートが神経質なアルペジオと絡み合い、やがて眩しいサビへと雪崩れ込んでいく――時代もジャンルも超えた、最高に自由で危険な音楽生命体。2年の休止を経ても一向に底知れない才能と熱量を目の当たりにした一夜だった。(高橋智樹)

1.NO END
2.Whole Lotta Summer
3.Sonata of the Summer
4.Pills To Kill Ma August
5.No Reason up to the Death
6.Atami Free Zone
7.Septemujina
8.Natsu no Mujina

アンコール
9.Newsummerboy
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