The Beatmoss @ 新宿LOFT

『The Beatmoss Flippin’ Out Tour』

昨年11月に『The Beatmoss Vol.1』、続いて今年1月に『The Beatmoss Vol.2』と2作のミニ・アルバムを発表しシーンに躍り出てきたThe Beatmossの、初のワンマン・ツアー。2/6に大阪Shangri-La、2/7に名古屋ell. FITS ALLとパフォーマンスを繰り広げ、千秋楽は新宿LOFTである。大人の余裕と類い稀なプレイアビリティに満ち、しかし押し付けがましさとはまったく無縁のユルユルなムードを振りまいてしまう4人の姿があった。まずはSOHNOSUKE(Dr.)、YAS、(Ba.)、KOSEN(G.)の3人が登場すると、SOHNOSUKEが繰り出す強いブギー・ビートから『The Beatmoss Vol.2』のオープニングを飾っていた“Freedom (twilight)”のイントロを鳴り響かせる。そこにキャップ+サングラス+パーカー+The Beatmoss Tシャツという装いのILMARI(Vo.)が加わり、オーディエンスの歓声を集めながら肩肘張らない歌声を披露してゆく。

夢見心地なハーモニー・ワークをYASの太いベース・ラインが支える“Break Down”では、前線のオーディエンスの顔を見渡しつつILMARIが小気味よく弾けるラップを繰り出し、そしてどっしりしたロック・アンサンブルの中にKOSENの開放的なギターの旋律が零れる“Yellow Sun”へと連なる。実力派が顔を揃えた4ピース・バンドの演奏であることは疑いようもないのだが、それに加えてThe Beatmossはとにかく曲がいい。演奏の爆発力やテクニック云々のみならず、メロディの中の繊細なフックがいちいち心の琴線に触れてゆくところがある。メロディメイカー/サウンド・クリエイターとしてのKOSENの貢献度の高さには、改めて驚かされるばかりだ。

「初ワンマン『Flippin’ Out Tour』へようこそー。デビューして3ヶ月~4ヶ月なんですけど、何しろ曲があんまりない!! なので、トークが長めかもしれません!……ちょっと待って……鼻が痒い」。“新人”バンドらしからぬ余裕をぶちかましているILMARIである。というわけで、パフォーマンスの合間には時折、ILMARIが他の3人のメンバーを紹介しつつユルいトークが散りばめられてゆく。「一番変な人」と紹介されてしまったKOSENは、ギターのコードについてILMARIに「これ、薬指はどこ?」と訊ねられたときに「薬指ってどれですか?」と応えたという天然系ユーモアの持ち主。やはり天才である。YASは、『ROCKIN’ ON JAPAN』などのインタヴューを受ける際、きっちりと話を纏めてくれるバンド随一のしっかり者だそうだが、本人は「でも、KOSENくんみたいなキャラに憧れます」と語っていた。そして名前の読みを「ショウノスケ」と間違えられると嘆いていたSOHNOSUKE(ソウノスケ)。「ILMARIくんはなぜ、年下の僕にも“くん”付けなんですか?」と質問を投げ掛ける。「俺なりのリスペクトの表れだから。リップ(スライム)でもそうだよ。PESくん、RYO-Zくん、SUさん。FUMIYAだけはFUMIYA。でもリップで一番偉いのはFIMUYAだから」

ILMARIはそんなふうに、RIP SLYMEの話題もオープンに語りながら今回のステージを進めていたが、これはThe Beatmossのメンバーそれぞれの、高い音楽的貢献度に対する信頼感があればこその姿勢だったと思う。“Summer”を歌っては「いい曲だなあ」としみじみ感慨を漏らし、今回のツアーでも初披露というKOSENのリード・ヴォーカルが艶かしい色気を漂わせる“So Fish”では、ILMARIが歯切れの良いリズム・ギターのリフで支えていた。その後に続く“フリースロー”を「指が痛くなっちゃった」と仕切り直してしまうさまには笑ったが、2人のギターがクレッシェンドしてドラマティックな展開を見せるサウンドスケープが美しい。

2作のミニ・アルバムを合わせてもレパートリーが14曲ということで、現在のところは音源化されていない楽曲もいくつか披露される。「やっちゃってもいいですかー!?」「ビートモース!!」といったオーディエンスとのファンな掛け合いからスタートだ。ファンキーで力強い生バンド・ヒップホップ・チューンが中心で、こういったスタイルはもちろんお手の物といったところなのだろう。ノスタルジックな情景からコミカルさと哀愁を引き出すようなリリックが映える“Recreation”といったナンバーも素晴らしかった。そして聴く者の背中を柔らかく押しながら、熱くエモーショナルな展開に持ち込む“All Around The World”の名演へ。ユルいトークと、優れて表情豊かな楽曲演奏とを何度も行き来しながら、SOHNOSUKEによるジャジーなドラム・ソロも挟み込まれてパフォーマンスは終盤戦へと向かう。「英語の歌(“Stranger”)、歌ってもいいですか? 顔は外人なんですけどね。錦糸町育ちです。よろしくお願いします!」と、自身の個性をフルに活かしてバンドのアイコンを引き受けてゆくILMARIの姿がそこにはあった。

トロピカルなレイドバック感の中で想像の果てに手を伸ばす“Great Journey”を経て、“Flippin' Out”から演奏スキルを惜しみなく発揮するスパートが始まる。挑発的なリフが踊り、グルーヴがうねるThe Beatmoss随一のミクスチャー・ロック“Laughter”の躍動感は凄まじいものがあった。本編ラストはオープニングと対を成す“Freedom (at Dawn)”で締め括られたのだが、アンコールの催促を受けて再登場した4人が届けてくれるのは、なんとRIP SLYMEのアルバム『JOURNEY』に収められた“Do it!”のカヴァーだ。ILMARI→KOSEN→YASとマイクリレーしてみせるレアなパフォーマンス。でも、せっかくスペシャルな一幕で盛り上がったのに、「楽屋にSUさん来てたんだよ。だから一緒にやってって言ったんだけど、さっき自分で作った歌なら歌うとか言うから、じゃあいい、っつった!」みたいな楽屋話まで正直に話してみせる。それでも、演奏が響き渡るなりムードを巻き返してしまうところがこのバンドの凄さであって、最後には“SUPERSTAR”の推進力があたたかいエネルギーを振りまいてフィナーレを迎える。極めてクオリティの高い楽曲と演奏を、自然体のまま伝えてしまうThe Beatmoss。まだまだ可能性を秘めたこのバンド、次のアクションには何を見せてくれるのだろうか。(小池宏和)

01: Freedom (twilight)
02: Break Down
03: Yellow Sun
04: Summer
05: So Fish
06: フリースロー
07: Smile on your face
08: Recreation
09: Landscape
10: All Around The World
11: Stranger
12: Great Journey
13: Flippin' Out
14: Laughter
15: Freedom (at Dawn)

encore
01: Do it!
02: SUPERSTAR
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