LIQUIDROOM名物の異種格闘技的対バン企画『UNDER THE INFLUENCE』と、LIQUIDROOMの恵比寿移転9周年記念イベントとの超合金合体的イベント・シリーズとして、8月8日の「MASONNA×後藤まりこ×MO’SOME TONEBENDER」をはじめここLIQUIDROOM Ebisuで名演が繰り広げられてきた『LIQUIDROOM 9th ANNIVERSARY presents “UNDER THE INFLUENCE”』も、今回の『LIQUIDROOM 9th ANNIVERSARY presents “UNDER THE INFLUENCE” 「TK from 凛として時雨 × amazarashi」』で大団円。開演前から身動きすらままならないほど超満員、静かな熱気渦巻くリキッドルームを、GOTH-TRAD[DEEP MEDi MUSIK / Back To Chill]のDJプレイが音の異世界へと導く中、TKとamazarashiの凄絶なサウンドスケープが身体よりも感情と思考を躍動させ痙攣させていくような、熾烈な音楽体験だった。
■amazarashi
01.ポエジー
02.夏を待っていました
03.ジュブナイル
04.性善説
05.この街で生きている
06.ラブソング
07.空っぽの空に潰される
08.匿名希望(※新曲)
09.あんたへ(※新曲)
10.美しき思い出
先攻はamazarashi。『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO』でのロック・フェス初参戦に続き、いわゆる対バン・イベントは今回が初ということで、フロアにはただならぬ期待感と緊迫感が漂う中、19:05いよいよ開演!――といっても、これまでのワンマン・ライブ同様、ハイ・クオリティなアニメーション映像を映し出すスクリーンを兼ねた紗幕でステージとフロアの間を隔てた形でのアクトのため、3人のサポートメンバーはもちろん、舞台下手の豊川真奈美(Key)&ハットをかぶりギターを構えている秋田ひろむ(Vo・G)の姿もシルエット程度にしか観ることはできない。が、速射砲のような言葉の数々で人間の矛盾を指し示す“ポエジー”しかり、ドラマチックなメロディ&アンサンブル越しに《消えてしまいたいのだ》と《僕らここに居るのだ》の狭間から必死に「生」への儚くも気高い意志を掲げてみせる“ジュブナイル”しかり、重力崩壊した賛美歌の如き音像の中で響く《ねぇママ 僕は知ってしまったよ 人間は皆平等だと/世界はあるがまま美しいと それ等は全くの詭弁であると》という“性善説”の慟哭のような熱唱しかり……僕らはか弱い存在であると同時に途方もないモンスターであり、傷つけ合い、求め合うというグウの音も出ないほどの残酷な真実を、格段に強靭さを増した秋田の歌は真っ向から射抜いていく。
トータル1時間ほどのステージの終盤、「新曲です」という秋田の紹介から“匿名希望”と題された新曲を披露。豊川のピアノが妖しく美しく響く中、みんなと同じはダサいからとみんなと同じことをのたまい、と匿名社会の軋みを指し示しつつ、最後は「あれは今までの僕自身だ」「文句があるならやってみせろよ」とその批評の刃を自らに向けてみせる秋田。そして、「わいと、ピアノの豊川で、2人で青森駅前の路上でライブやってた時からずっと考えてたことなんですけど……たぶんわいはずっと、自分が言われたい言葉を探してたんじゃないかなって。最近、よく思うようになりました。次はそんな曲です」という言葉とともに演奏したのは、もう1曲の新曲“あんたへ”。胸に焼きつくような3拍子のハード・バラードのアンサンブル&秋田の絶唱とともにスクリーンに映し出される《今辛いのは 戦ってるから 逃げないから》の文字のひとつひとつが、心と全身を震わせる。11月20日に新作アルバム『あんたへ』をリリースすることを発表したamazarashi。さらに鋭利でダイナミックに進化した「今」の音をまざまざと体感させてくれる1時間だった。
■TK from 凛として時雨
01.新曲(弾き語り)
02.flower
03.Abnormal trick
04.12th laser
05.phase to phrase
06.haze
07.Fantastic Magic
08.film A moment
EC1.新曲(バンド)
EC2.Shandy
そして後攻はTK from 凛として時雨。こちらもこれまで数本のイベントや『ROCK IN JAPAN FES. 2013』『SWEET LOVE SHOWER 2013』といったフェスへの出演はあるものの、2マン・ライブとしては7月に日比谷野音で行われたTHE BACK HORNとのイベント以来となるTK。まずは1人颯爽とオン・ステージしたTK、テレキャス弾き語りで新曲を披露。メロウな凄味に満ちた音色と、囁きと悲鳴が一緒になったようなTKのセンシティブな歌が、リキッドルームの空気をamazarashiのアクトの時とはまったく異なる色の妖気で塗り替えていく。そこへ『SWEET LOVE SHOWER』と同じくBOBO(Dr)/山口寛雄(B)/大古晴菜(Piano)/佐藤帆乃佳(Violin)というラインナップが加わったところで、アコギに持ち替えたTKが繰り出す“flower”のエッジィな幾何学模様の如きギター・プレイ! タイトな16ビートからサンバの如き狂騒リズムまでボーダレスに叩き出し、1曲の中に幾重にもイマジネーションを織り込んだ楽曲にパワフルな生命力を与えるBOBOのドラム。『ROCK IN JAPAN』などでベースを務めていた日向秀和のバキバキと爽快なエッジ感とは別種の、衝動や焦燥感のうねりをそのまま楽曲の奥底にジャック・インするような、豊潤でミステリアスな山口寛雄のベース・プレイ。楽曲に凝縮された極彩色の狂気を鮮やかに咲き誇らせていく大古晴菜&佐藤帆乃佳の音のタペストリー……といったサポート・メンバーの熱演を受けて、“Abnormal trick”の絶叫がどこまでも壮絶なダイナミズムとともに噴き上がり、高音弦のようにテンションの高まった会場の空気を“12th laser”の高速アルペジオが狂おしくまさぐっていく。
「はじめまして、TKといいます。新曲をやります」という言葉とともに鳴らしたのは、フェスなどでも披露していた未発表の新曲“Fantastic Magic”。タイトな16ビートとスラップ・ベースが不穏に蠢き、TKのファルセットとギター・ソロが背徳的なまでの目映さをもってリキッドルームを照射していく。限りなくエクストリームで麗しいTKのアクトは、“film A moment”まで体感時間ほぼ一瞬で頭と身体を轟々と吹き抜けていった。アンコールでは「新曲をもう1曲作ってきたので聴いてください」とさらに新曲を演奏。ファンキーさを備えたビートと、佐藤が奏でるシンセ・ストリングスの響きが、心の揺らぎと震えそのもののようなTKの歌と相俟って、壮麗かつスリリングな高揚感を描き出していく。そして、ピアノのカラフルなイントロから流れ込んだこの日のラスト・ナンバーは、凛として時雨曲“シャンディ”! 艶かしさと切れ味を併せ持った音のひとつひとつが、あたかもひりひりと疼く心の傷を花開かせていくように激しく響き渡り、やがてすべてを閃光の如き轟音で包み込んで――終了。「アニバーサリー・イベント」という言葉の祝祭感とはほぼ対極にあるとも言えるこの日の対バンはしかし、9周年を迎えたリキッドルームの歴史に最高の1ページを刻んだし、オーディエンスの胸には強烈な感激と戦慄とともに忘れ難く深々と刺さったに違いない。体験できて本当によかった、と心から思える名演だった。(高橋智樹)