スフィアン・スティーヴンス @ 渋谷クラブクアトロ

もう約束してしまってもいいかもしれない。2008年もまだ1月だけれど、今年のベスト・ライブの間違いなく5本指に入るだろう、そんな確信がある。スフィアン・スティーヴンス。正直、日本での知名度は、まだまだのシンガー・ソングライターだ。しかし、コアな音楽ファンには深く愛されているアーティストであり、アメリカのシーンではカナダのアーケイド・ファイアに続いて、オピニオン・リーダーともいうべき地位を確立しつつある。

アーケイド・ファイアは9・11以後の北米≒アメリカの状況を、激しく打ち鳴らすリズムと大合唱のアンセムで打破しようとしたが、そうした比較でいくと、スフィアン・スティーヴンスの最大の武器は、ハーモニーだと言える。最大5人編成の管楽器、ロック・コンサートとは思えないほど低めに設定されたマスター・ヴォリューム、そして、古典的と言えるほどのアルペジオの連なり。初来日となった今回は、その醍醐味をすべて見せてくれた。機材のセッティング中にステージに一旦現れた後、今回の衣装である原色の眩しいベストに着替えて始まったライブ。1曲目の“The Predatory Wasp Of The Palisades Is Out To Get Us!”(この曲名の長さは彼の重要な特徴である)から、「あの声」が静かに、しっかりと響き渡る。そして、管楽器のアンサンブルが入ってくるときの迫力。能天気さなど微塵もない、なにかを綴るために計算され尽くしたオーケストラル・ポップ。そう、彼はアメリカ50州を1州ずつアルバムにしていくプロジェクトをやっており、現在『ミシガン』と『イリノイ』の2枚が発表されているが、彼のハーモニーは語られない物語を語るためにある。それは現在のロック・シーンでもエポック・メイキングなものになりつつある。

“The Avalanche”“Concerning the UFO Sighting Near Highland, Illinois”“Detroit, Lift Up Your Weary Head! (Rebuild! Restore! Reconsider!)”“Seven Swans”“Majesty, Snowbirds”“Chicago”といった代表曲も満遍なく演奏され、初来日としては完璧なものだった(スフィアンの友人だというヒデアキ氏によるMCの見事な翻訳も素晴らしかった)。超満員の人いきれのなかで2時間近いステージだったが、そんな時間はまったく感じなかった。(古川琢也)
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