【ロッキング・オンを読む】トム・ヨーク、『サスペリア』サントラからソロ新作までを語り尽くす最新インタビュー後編【全文公開】

【ロッキング・オンを読む】トム・ヨーク、『サスペリア』サントラからソロ新作までを語り尽くす最新インタビュー後編【全文公開】

インタビュー:坂本麻里子

前編は以下。
【ロッキング・オンを読む】トム・ヨーク、『サスペリア』サントラからソロ新作までを語り尽くす最新インタビュー前編【全文公開】
インタビュー:坂本麻里子 トム・ヨークは、いつも聴覚だけで体験する音楽を作ってきた人だと思う。そんな彼にとって意外や初の本格的サントラは、『君の名前で僕を呼んで』で国際的評価を得たルカ・グァダニーノ監督によるユーロ・ホラーの傑作『サスペリア』(1977年)のリメイク。前作はゴブリンの…
【ロッキング・オンを読む】トム・ヨーク、『サスペリア』サントラからソロ新作までを語り尽くす最新インタビュー前編【全文公開】

音楽を作ることで世界を理解する



●アルバムの収録時間は実に80分近いのですが、全トラックが劇中で使用されているのでしょうか?

「“ジ・ユニヴァース・イズ・インディファレント”は使われなかったな。あの曲は、とあるシーンで使われた音楽の別候補、みたいなもので。制作者側があの曲を使わなかった理由は僕にも理解できるよ。というのも、先方はあの場面にとても甘美な楽曲を求めていたけれども、僕としては甘い曲にすべきかどうか確信が持てなかった。だからあの曲では彼らの求めているものとはまったく逆のことをやった、という。

それから……“ハズ・エンディッド”。あれは、もともとカンっぽいグルーヴ曲をやろうとしていたんだけど、作っていく過程で歌になっていった。というわけであの曲は最終的に歌として仕上げたし、今回やった他の楽曲群と一緒にまとめるべきだ、そう思えたっていう。だから、おかしな話でね……正直、ルカがもともと頼んできたのはメイン・テーマ的な歌をまず1曲、そして可能であればエンディング向けにも何か、みたいなことだったんだよ。ところがやっていく中で、自分のクリエイトしていた素材のいくつかは伝統的な意味でのボーカルを含める必要がある、とごく当たり前に思えるようになっていって。

で――自分でも『あれ? ちょっと待った』とハタと気づかされたんだ。『これって、1枚のレコードになってるじゃないか!』と。たしかに奇妙ではあるけれども、ただ、レコードであるのには変わりがない。だから、何も僕自身が好んで作ろうとした、そういうレコードではないんだよ。ただ、僕がこの作品を気に入っている点はそこだ、という。要するにこれは、(両手で身振りしながら)僕のひとつの手はもう一方の手をこちらに向かって押していくし、またもう一方の手はこっちの手をあちらに向けて押している、そういうレコードなんだ。それでもれっきとしたレコードになっている、と。奇妙だよね」


●あなたとレディオヘッドの音楽は映像的で、映画作家やスタンリーを始め多くの視覚芸術家を刺激してきました。今回はその逆で、他人のビジョンや物語にインスパイアされ、あらかじめ備わった枠組みの上に音楽を組み立てる作業だったかと。オリジナルの自作とはまた違うこのプロセスで、通常とは異なるクリエイティブな満足感を得ましたか? また、制約を感じましたか? それとも、逆に解放される経験でしたか?

「んーー……だから、どんな作品に取り組むのであれ、やっぱり何がしかの制約の範疇内で仕事しているわけでさ。たとえ自分ひとりで作業していたとしても、『これはやってみるべきいい思いつきだ』と自分で思える、その制約の中で仕事をしていくわけだし。だから、他人から『こういうことをやって欲しい』と指図を受けて、それを自分なりに解釈していくことには、ある種奇妙な『自由』の感覚があったよ。

ただ……毎回こういうプロセスを踏みたい、というものではないけれども。というのも、いずれにせよ僕は常に何かに取り組み仕事している、みたいな状態だから。というか、僕には仕事が必要なんだ。だから、世界を理解しその意味が通じるようにする方法、僕にとって、それは作品を作ることを通じて、なんだよ。それが自分の見方だし、これまでもずっと、僕はそういう風にやってきたから。んー……けれども……(プフーッと軽くため息をつきながら考え込んでいる)…………そう言えば、今の質問にはビジュアル云々の話もあったよね?」

●あなたの音楽はとても映画的で、聴き手の心に様々なイメージを喚起します。ところが今回はイメージが先に決まっているわけで、ある意味逆の働き方をする作品だな、と。

「うんうん、なるほど。僕は……自分でも気づいたんじゃないかな? だから、今や何人かの映画監督たちと、友人と呼べるくらいの仲になっているわけだよね。で、自分でも驚かされたんだ――映画製作のプロセスとレコード作りのプロセス、そのふたつがどれだけ似通ったものであるかという点に。もっとも、レコードと言っても楽曲単位の話ではなく、アルバム作り、という話だけれども。もちろん映画製作の方がはるかに困難で、スタッフを多く集めなければならない云々、大変なプロセスではある。ただ……ふたつは類似しているんだよ。

なんというか、ある人間にこの、何かしらアイデアが浮かぶと(苦笑)、それを形にしていくべく、また、思った通りのやり方で形に整えていくべく、その人間は闘っていくわけだよね? たくさんの、動きのあるパーツを用いながら。で、僕はアートを学んだし……それから僕は、アートワークも毎回スタンリーと一緒に手がけてきた……それにプロモ・ビデオ制作面でも常に関わってきて――たぶん、関与し過ぎたんだろうな。あれこれくちばしを突っ込まず、ビデオ監督にやりたいようにやらせるべきだった、という場面は何度かあったし。というのも、ビデオを自作できるほど優れた感性や目利きなところは、僕には備わっていないから。それでもやっぱり、色々と意見を持っているし……だから、うん、自分でもどうしてそうなのか分からないけれども、僕からすれば自分の作る音楽には視覚的な要素がなければならない、と。

そうは言っても、それは必ずしも映画である必要はないんだけど。たとえば、今ちょうどあるプロジェクトに取り組んでいて、ナイジェルとそれを仕上げつつあるところなんだけど、そこではスタンリーに制作中から関与してもらっていなくてね。だから、制作プロセスの今のこの時点、終わりの段階でやっとスタンリーに来てもらい、一緒に仕事し始めているところで。というのも、僕たちはこれまでやってきたこととはまったく違うことをやりたいと思っていたからだし――だからほんと、今まさにおっかない瞬間を迎えている、という。『さあ、どうすればいいだろう?』、『一体どうなってるんだ?』、『何、なんなの?』みたいな状態で……。とは言っても、それは(真面目な学生っぽい口調で)『この音楽は我々に何をやらせようとしているのだろうか?』と自問する、ということじゃないんだけどね。僕たちの作業の進め方は、そういうものではないから(笑)。

それよりももっと、ある種の奇妙な……それが何であれ、自分たちが興味を惹かれていること、それを実現していく方法を見つけ出していこう、という。で、実際にそれが起きると――たとえそれがたかが1個のイメージの断片であれ、『自分はこのイメージに共感できる』と感じる、そういうイメージに行き当たると……こう言うととてもバカらしく響くかもしれないけれども、僕からすれば、音楽を仕上げるプロセスはそこから発生していくんだ。それはたぶん、似ているんじゃないかな……いや、もちろんこれは、『自分もそのレベルにいる』という意味合いで引き合いに出そうってことではまったくなくて、たまたま、今頭に浮かんでいるから例に出させてもらうだけであって。

なので、あらかじめ『すみません』とお詫びしておくけれども――スタンリー・キューブリックの逸話があってね。『2001年宇宙の旅』のシークエンスのひとつに音楽作品が使われていて、もともとあの音楽を使ったら?と提案したのは彼の妻だったらしいけど、ともかく、彼も『この音楽をガイド役として、仮に場面に合わせておこう』ということで、映画が完成したらいずれ別の音楽に差し替えるつもりだったんだよ。ところがポスト・プロダクションまでには、もうあの音楽と映像とはぴったり合わさってしまった、と。切り離せなくなってしまったんだね。

僕が感じるのも、ある意味それに似ている。だから、音楽を作っていくプロセスの中ではたまに、とあるイメージがその音楽に癒着してしまうことがある、と。で、それが起きると『以上!』という感じで、そのふたつは決して離れることがなくなる。たとえば……『サスペリア』についても、基本的にすべてのイメージは映画に含まれているし、それらは全部、僕の頭の中で音楽と結びついているんだよ。でも、それと同時に僕なりに抱いたイメージ群も存在する、と。“サスペリウム”については、とても、とても強烈な……ダンテの『神曲』の『地獄篇』、あの、さまよう失われた魂たちのイメージが浮かんだ。あるいは、非常にエレガントな年老いた女性たちが、見ている人間は誰もいない状態で部屋で踊っているイメージだとか、そういうもろもろが浮かんできた。で、それらは音楽とぴったり合わさっているし、あの音楽を再生するたび、そのイメージが僕の中に浮かんでくるんだ。妙な話だけど、ほんと、そういうものなんだよ」


次のソロ作品は来年リリース予定



●本サントラは、ピアノ・モチーフの反復とアンビエントなサウンドスケープ、加工されたボイスや古い聖歌を思わせるチャントが主な音のパレットになっています。とてもデリケートで、いわゆる「ホラー映画のサントラ」らしからぬ内容ですね。

「だから、自分でもやりたくなかった……というか、いくらやりたいと思ったって僕には無理だったんだけど、いわゆる、『普通の』ホラー映画のサントラ、というのはやりたくなかったんだ。過去何十年もの間に、一定の『ホラー映画の慣用句』らしきものが発展してきた気がするわけだけど――ただ、実際の話、ベストなホラー映画って、その手のサントラを使っていないものであって。たとえば『エクソシスト』のサントラなんて、まったくそういう類いのものではないし――だろ? とにかく、本当に、本っ当に奇妙なメロディが使われている。僕個人としては、聴き手を不安にさせるやり方で淡々と繰り返し続けるメロディというのは、もっとも心がざわつくものじゃないか、と思うけどね(笑)」

●実際に完成した映画、音楽と映像がひとつになったものを観て、どう感じましたか?

「僕には、僕には……観れないな(首を横に振りながら苦笑している)。とにかく、無理! 不可能。あれだけ制作中に繰り返し観てきただけに、免疫がついてしまった、もう観れない、みたいな? だから、こう考えてもらうと分かりやすいだろうけど――僕は、ある女の子が可哀想なことに、鏡張りの部屋をあちこち引きずり回され、バラバラにされる悲惨な場面を6ヵ月間も眺めてきたわけ。(苦笑)。もう、完全に慣れて免疫がついてしまった、と。観てもちっとも怖くないし、麻痺して何も感じない(笑)。

そうは言いつつあの瞬間、“ヴォルク”の流れる場面を映画館で、ちゃんとした素晴らしいサウンド・システムを通じて耳にした時は――この音楽に取り組む前、ずっと以前の段階で、ルカがあの場面を説明してくれた際に僕の頭に浮かんだアイデア、あれが具体化して生命を吹き込まれたのを感じたね。キーボード群が映画館の天井にまで上昇していき、他のサウンドがちらばっていくさま、あれを耳にした瞬間は、自分にとってものすごく大きな、創作面でのハイライトだった、みたいな? 妙な話だけれど。で、そんな風に感じることになるとは、まさか自分でも思ってもいなかったんだよ。ただ、あれを体験した後、全身に震えが走っていた、という。あれはほんと、とてもクールな瞬間だった」

●『サスペリア』発表の一方で、ナイジェル、タリク・バリとのエレクトロ・ショウのUSツアーを11、12月にも行う予定ですね。ここから第二の『トゥモローズ・モダン〜』が生まれる可能性がある、とか?

「だから、あのエレクトロ・ショウを通じて発展してきたレコードを仕上げようとしているところなんだ」

●それは嬉しいですね!

「できるだけ急いでやるからさ、ハッハッハッハッハッ!」

●来年にはリリースされそう?

「まったくねぇ、自分でもそう願ってるよ!(笑)」

●非常に楽しみです。

「うん、自分たちとしても作業する時間ができたらすぐにでもやりたい、まとめ上げたくて仕方ないんだ。あれはすごくクールなものになってきたし、僕たちとしてもそれに見合ういいものにしたいな、と。でも、ということは、ちょっと間を置かなくちゃいけない、ということで。でまあ、言うまでもなくエレクトロニックな内容になるわけだけど、あれは……そうだな、本当にいい瞬間を捉えている、という。だから実際、僕もとてもエキサイトさせられているんだ。何かいつもと違うぞ、そんなフィーリングがある」

●なるほど。レディオヘッドの今後の動向は、どうなりそうですか?

「いや、今は全員が別のことをやっている、そういう状態で。それで問題なしだよ。ただ、集団としては、今は動いていない、というね」



トム・ヨークが手掛けたサントラ『サスペリア(ミュージック・フォー・ザ・ルカ・グァダニーノ・フィルム)』のレビューは以下。

ソロ作としても白眉、トム・ヨーク初のサントラ
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トム・ヨーク サスペリア(ミュージック・フォー・ザ・ルカ・グァダニーノ・フィルム)



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【ロッキング・オンを読む】トム・ヨーク、『サスペリア』サントラからソロ新作までを語り尽くす最新インタビュー後編【全文公開】 - 『rockin'on』 2019年8月号『rockin'on』 2019年8月号
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