僕たちのすぐ側で息をする彼女の、さりげなくも強い「歌」。
シンガーソングライター・にしながその音楽に歌い込むものとは
文=小川智宏
問答無用に耳にこびりつくような迫力があるわけでも、一聴しただけでそれとわかる強烈な記名性があるわけでもない。シンガーソングライター・にしなの歌声は、あえて簡単で乱暴な言葉を使うならば世界の「どこにでもある」声だと思う。だが、その「どこにでもある」性において、彼女の歌は圧倒的だ。にしなの声は僕らと同じ空気を吸い、同じ風景を見ている声なのだ。だから、どれだけ個人的な記憶や抽象的な情景を歌おうと、彼女の歌は今ここにある感情とグルーヴする。
昨年10月のデビュー、そして4月7日にリリースされたファーストアルバム『odds and ends』へ。音楽性を広げ、その射程をグングン伸びす彼女の本質とは何か。なぜ彼女の歌はこんなにも生々しい切なさを内包するのか。自分のペースを崩さずに活動を続ける彼女は、自分の歌がなんであるのかを誰よりもよく知っていると思う。(小川智宏)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年6月号より抜粋)