我々の生活空間を一瞬のうちに捻じ曲げるあやかしの日本語ポップ新世代――
その存在を検証する
文=小池宏和
ちょっとTikTokなどのSNSアプリを開こうものなら、さまざまな動画から和ぬかの“寄り酔い”が聴こえてくる。年明け以降の首都圏を中心にした緊急事態宣言下の日々と重なっていたからそんな時間が増えたのかもしれないが、世間に人々の緊張感や不安や苛立ちや疲労感が立ち込めていた時に、この甘い酩酊感と官能的なロマンスを振り撒くナンバーがバイラルヒットを記録したことは、とても印象的であった。心までが冷え込む冬から春にかけ、我々はこぞってこの特効薬か強めのアルコールのような楽曲を摂取し、文字通り「酔った」のである。SNSが生み出すバイラルヒットの構造は、リスナーの欲求や需要に正直だ。たとえ無名のアーティストによる作品であったとしても、欲求や需要に応えてくれる楽曲ならば、瞬く間に大ヒットを記録する。そこに生まれた「“寄り酔い”って誰の曲?」「和ぬかって何者?」といった健全な疑問は、音楽シーンを駆動させる大きなエネルギーになっているのだ。(小池宏和)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年6月号より抜粋)