anoはいろんな表情を持つアーティストだ。嬉しいときは笑うし腹が立ったら怒る、という文字通りの意味においてもそうだし、バラエティで笑いをかっさらったりアーティストとして『NHK紅白歌合戦』に出たり、様々な活躍のフィールドを持つという意味においてもそうだ。いろんな表情を持ちながらも、その立ち居振る舞いはいつだってナチュラルで、言いたいことを言うのをやめないし、安易に自分を曲げたりはしない。その姿は時に「わがままだ」「破天荒だ」と物議を醸すけれど、果たしてほんとうにそうだろうか。ポップにしてるつもりだけど、根本にはパンクな魂がある。
かわいい着ぐるみ着たバケモンみたいな。
これをもっともっと壮大にできたら楽しいだろうなって
ソロ活動をスタートして約3年、満を持してリリースされる1stアルバム『猫猫吐吐』もいろんな表情を持つ作品で、そこにはどろついた負の感情がたくさん吐き出されているけれど、楽曲はどこまでも明るくてポップだ。anoは音楽を通して、怒りや恥のような隠したい気持ちもエンタメとして昇華し、「不登校」や「コミュ障」もひとつの「個性」としてきらきらと光り輝かせる。そんな魔法が使えるアーティストを「優しい」と言わずして、なんと言えばいいのか。
「多様性」が謳われながらも、まだまだマイノリティが排除されやすい現代。「かわいい着ぐるみ」を被りながらもパンクな魂であらゆる偏見と戦い続けるanoは、大人になるにつれて割り切ったり誤魔化したりすることを覚えた僕らのスターだし、現在進行系で社会との折り合いのつけ方を探している若い世代にとっては生き方の指針を示す存在であると思う。全18曲、18通りの表情を見せる『猫猫吐吐』は、生きづらさを抱えるすべての人が自分らしく生きるための武器であり、素直な愛情表現が下手なanoから届けられた愛で満ちたプレゼントなのだ。
インタビュー=畑雄介 撮影=磯部昭子
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年1月号より抜粋)
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