劇的に自分の環境を変化させていかないとダメだなって。
今まで隠し続けてきたものをさらけ出して、人間味があることをしていったほうが、僕の音楽にもいい影響がある
聴いて、このアルバムに刻まれている感情には「嘘がない」と感じた。すりぃのニューアルバム『グラデーション』である。
ボカロPとして“テレキャスタービーボーイ”や“エゴロック”、“ラヴィ”などの名曲を生み出してきた彼が、自身歌唱のために楽曲を作り上げ、そして歌った10曲を収録したこのアルバム。ここに刻まれたものはあまりにもリアルだ。深い内省ゆえの焦燥と衝動、SNSと現代社会に突きつける苛立ちと皮肉、惜別と追憶、消えない悲しみと見出した希望、辿り着く安寧と、漂い続ける不安……そんな、すりぃという表現者が、ひとりの「人間」としてその身に感じてきた様々なエモーション。彼の「自分のことを自分で歌う」という決断は、結果として、すりぃの中に渦巻いてきたその様々なエモーションを白日の下に曝け出すこととなった。彼は「自分」を搔き消さなかった。
ジタバタ、ビリビリ、チュウチュウ、サラサラ……その独特な言語感覚と多面的な音楽性は、強烈な中毒性を持ちながら、その快楽性の背後に渦巻く「現実」を私たちに突きつける。消えない孤独、見えない解決。しかし、すりぃはそんな現実認識の中から、穏やかさと、ささやかな光を掴み取ろうとする。
“花水木”で彼はこう歌う――《報われないままでもいい/だけど僕ら歌いますよ》。
切実な叫びと独り言の集積のようであり、ゆえに、この時代をサバイブするための解放の楽曲集でもあるアルバム『グラデーション』。このアルバムが如何にして生まれたのかを、本人にじっくりと語ってもらった。
インタビュー=天野史彬 撮影=伊藤元気(symphonic)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年1月号より抜粋)
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