今回のEP『MARBLES』は、コロナ禍に生まれた楽曲を収録した作品である。オーラルと拓也が向き合った2年半、その記憶のすべてがこの5曲には刻まれている。クリエイティブをすることでコロナ禍のしんどさを紛らわしていた反面、それでも悲しいことが押し寄せてくる。
「今これを吐き出しておかないと明日ヤバい、明後日ヤバい」みたいなタイミングでそのまま出したのがこの曲たちやった
驚くほどに親密な温度を持った楽曲たち、と言うこともできる。特に“隣花”“IZAYOI”“聖夜”という、この作品で初めて聴くことができる3曲には、隣でそっと呟かれ、一対一でこそ伝わってくるような穏やかな言葉が綴られている。もちろんその繊細な響きには、誰もが同じように苦しみ悲しみながら向き合ってきたこの3年半の記憶と共振する、生活者としてのリアルな実感が込められている。だからかつてなく赤裸々な作品だとも、かつてなく無防備でありのままの作品だとも言うことができる。山中拓也という人は、この3年半の苦しみと悲しみ、そしてその日々を超えていくための思いを、こうしてきちんと「作品」にして届けようと考え、実際に実行する男なのである。未曾有の季節は終わったんだとニヒルに嘯くのでも、無闇に拳を振り上げて鼓舞のアジテーションを叫ぶのでもなく、自分はこの日々をこうして過ごしてきたよと一切のごまかしのない歌声で共有しようと考える人なのだ。僕はその静かな強さに、拓也の、音楽家としての確かな成熟を感じる。
それぞれのリスナーにじっくりと受け止めてもらいたい楽曲たちである。“隣花”には、こんな歌詞がある。《祈った声も/祈った明日も/命ある君を見つけたら/今を生きよう/ただそれだけのことも出来ず/立ちすくんでた》──。力強いメッセージの手前にある、翻弄された心の有り様。そのあまりに有り体な吐露。無防備な心の佇まいを懺悔するように歌うことから、「次の季節」に進むことを選んだオーラルと拓也の実直な姿勢を僕は確かに支持したい。
これほどまでに明確に、過ぎた日々を振り返るインタビューはこれがきっと最後だろう。読者それぞれが抱く日々の記憶とともに読み進めてもらえたらありがたいです。
インタビュー=小栁大輔 撮影=太田好治
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年5月号より抜粋)
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