アカデミー賞で主演男優賞をこれまでに3回も受賞しているダニエル・デイ=ルイス。過去にも長い間映画に出演していない時期はあったが、最新作『Phantom Thread(原題)』の後、初めて公式に俳優業を引退すると発表し話題となった。
映画の予告編はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=xNsiQMeSvMk
W誌の表紙となったデイ=ルイスは、そこで引退を公表することにした理由を語っているのだが、なんと、「なぜだか分からないのだけど、悲しみに襲われたから」ということなのだ。
ポール・トーマス・アンダーソンが監督で、ジョニー・グリーンウッドが音楽を担当している『Phantom Thread』が彼の最新作であり、引退を決意させた作品なのだが、デイ=ルイスは「この作品を撮影する前には、引退するとは思っていなかった」ということ。
映画を作る前は、ポールと僕はいつも笑っていたんだ。だけど、笑うのを止めてしまった。ふたりとも悲しみに襲われてしまったから。それはふたりにとっても驚きだった。自分達で、何を産み落してしまったのか分からなかった。だけど、それとは一緒にいられないと思った。それは今でもそうなんだ。
しかし彼は「一体何が起きてしまったのか自分でもよく分からないんだ」ということで、自分でもそれ以上の説明はできないのだということ。
だけどそれが自分の中に間違いなく留まってしまった。だから、映画を作ることから引退を決意したのは、この映画を観たくないと思ったことと関係している。引退を決意したから悲しみに襲われわけじゃないんだ。悲しみはこの物語を語っている最中にやって来た。それが一体なぜなのかは分からない。
これまで自分の作品は完成したら観たのだそうだが、今回はだからこの作品は観たくないのだそう。
さらに引退の決意が固いことも語っている。
わざわざ引退を表明するというのは、普通ではないというのは分かっていた。だけど、今回は、しっかりと線引きをしておきたかったんだ。というのも、また何かのプロジェクトで演技に戻りたくなかったから。僕はこれまでずっと、演技を辞めるべきかというような生意気なことは言わないできた。だけど、今回の場合は違ったんだ。辞めたいという衝動が自分の中に根付いてしまった。それがどうしても抑えられない衝動になって、今回は辞めると発表する以外なかったんだ。
しかもいまだに悲しみに襲われているのだそう。「いまだに莫大な悲しみで一杯だ」「僕は12歳の時から演技をしたいと思ってきた」「演技を始めた時は、救済の問いだったんだ。だけど、これからは、まったく違う方法で世界を探求していくことになる」
「これから何をするのかは分からないけど、ずっと何もしないわけではないよ。完璧な静粛を恐れることもない」とも説明している。
デイ=ルイスは、先日、NYで行われた試写会で珍しく監督や他のキャストとともに壇上に現れた。そこでは、この映画の撮影が「悪夢だった」と語っていた。
というのも、映画の大半は彼が演じてる1950年代のイギリスのデザイナー、Reynolds Woodcockの家を舞台としている。なので、アンダーソンはスタジオで撮影するのではなくて、イギリスで実際に一軒家を借りて撮影したという。しかし、いざ撮影が開始してみたら狭すぎて、全員が全員の邪魔になるという最悪な環境だったとデイ=ルイスは語っていた。
まるでスペースがなかったんだ。これが僕の部屋だと割り当てられて、その部屋を自分自身の一部だと思っていると、それがいつの間にか機材置き場になっていた。その部屋で自分は準備していたのに、また別の部屋にすべてを持っていかなくてはいけなかった。
さらに冗談で、「みんながお互いに嫌気が差しているような状況で仕事するのは、すごく大変だった」とも。
デイ=ルイスが今回演じているのはファッション・デザイナーのReynolds Woodcockだ。架空の人物だが、アンダーソン曰く、彼はファッション・デザイナーにはまるで興味がなかったのだけど、バレンシアガの人生を知ってファッションに興味を持ち始めたのだということ。
なので、元々のモデルはバレンシアガであり、デイ=ルイスはなんと、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館に行ってバレンシアガがデザインした服をスケッチし、それを元に実際にドレスを作ってみたという。それを奥さんのレベッカ・ミラーが着たそう。「すごく素敵だった」ということ。というか、実際にドレスを作って奥さんに着せたデイ=ルイスが素敵すぎだ。
物語はイギリス社交界で女性にもて、華々しく活躍しているデザイナーのWoodcockを主人公に、ある日彼がAlma(ヴィッキー・クリープス)と出会うことで彼のクリエイティビティ、人生にどのような異変が起きるのか、という内容。アンダーソン曰く『レベッカ』(1940年)をインスピレーションにしているそうで、「普通の恋愛映画ではない」ということ。
『Phantom Thread』がオスカーに何かしらノミネートされるのは間違いないが、現時点では「ニューヨーク映画批評家協会賞」と「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞」で、ポール・トーマス・アンダーソンが脚本賞で受賞。「ロサンゼルス映画批評家協会賞」では、ジョニー・グリーンウッドが音楽賞受賞している。