ジャック・ホワイトが語る、マイケル・ジャクソンからアル・カポネ!!新作のインスピレーションとなった10の狂った試み。最新号インタビュー番外編。


6)初めてスタジオで会ったミュージシャンと、3日間でレコーディングする。
「俺がナッシュビルでドラムビートのサンプルをループして作った曲をNYに行って、その時初めて会ったバンドに聴いてもらい、それに合わせて演奏してもらった。それぞれの都市に3日間しかいないで状態でレコーディングした。だからみんなにまずリラックスしてもらい、数日でドラムの音を調整する、なんてやり方ではなかった。スタジオ入りした瞬間から20分後にはレコーディング開始だったんだ。即座に始めて、全員が全く違ったエネルギーをもたらしてくれたんだ。結果それぞれの曲にものすごく層ができ、しかも1曲に付き実は20分くらいの長さになった。それを聴きやすい曲にするために3分間の曲に編集した」

7)初めてプロツールを使う。
「プロツールでレコーディンするのは全然好きではないし、プログラムでできるデジタルのプラグインや、フェイクなリバーブとか、圧縮機能とかそういうサウンドは全く好きではない。だけど編集の道具としてはすごく便利なんだ。これまではずっとテープとカミソリで編集してきて、それは最高に難しかった。俺はずっとそうやってきたんだけど、でももうカミソリで編集している人はどこにもいない。今回のアルバムで編集にプロツールを使ったのは、あまりに複雑なアルバムだったからなんだ。ナッシュビルで8トラックでレコーディングしたものをNYに持って行って、その上にレコーディングして、LAに持っていて、さらにその上にレコーディングした。だから1曲に付き、36トラックくらいになっていて、そんなにトラックが多いことこれまでの人生で一度もなかった。そこまでトラックがあると編集がものすごく大変になる。ドラマーが4人もいる曲もたくさんあったし、めちゃくちゃ複雑だったからそれをテープとカミソリで編集するなんて絶対無理だった。だからプロツールで編集すると決断する以外にはなかった。これだけの楽器が使われた作品で、それは適切な判断だったと思う」

8)マイルス・デイヴィスやプリンスのように自分を窮地に追い込む。
長い曲を後から編集したという意味では、マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』などを彷彿とさせると訊くと、

「それは考えなかった。このアルバムのサウンドをどうやって人に説明すればいいのか、よくわからないんだ(笑)。とにかく自分で聴いて考えてもらう以外にない。ただ、アーティストが自分を窮地に追い込むことからものすごく革新的なものを見出すと言うことはこれまでにもあったと思う。『ビッチッズ・ブリュー』はそうだし、プリンスの『Sign o’ the Times』がそうだ。様々なアイディアが一つの瞬間で起きているというアルバムが存在する。だから、俺としては今42歳で、これまでのたくさんのアルバムを作ってきた後で、それでもまだこの作品ほどたくさんのアイディアが衝突し合っているアルバムを作れると言うのは、最高の気分だよ。というか、俺はまとめあげなくちゃいけないようなアイディアがまだまだありすぎるくらいなんだよね。それって悪くないよ。というのもその反対である事の方が簡単に想像付くからね。ギターを抱えて『何のアイディアも浮かばない。どうすればいいのか全く分からない』といういわゆるライターズブロックになることは容易に考えられる。幸運なことに、そういう問題に今のところ直面したことがない。今後もそういうことがないと良いと思うよ(笑)」

9)アメリカの銃問題について歌う。
ジャックはこれまでとりわけ政治色が強いアーティストだったとは言えないが、この作品では政治的な曲を何曲か作っている。例えば、“What’s Done is Done”では、主人公が銃を買いに行く場面が出てくるのだ。それについて、
「この曲のアイディアはすごく色々なところから来ていて、最初はアメリカで店に入って銃を買うことがどれだけ簡単なのかを伝えようとした。それって、ものすごく悲しい事実だ。クリス・ロックが言っていたジョークで面白かったのは、『弾丸を1つに付き、1万ドルにするべきだ』と言うね。そうすれば本当に必要な時以外使わないから、ってね。でも、アメリカでは、銃を買うのはすごく簡単だ。俺はそれをブルーズやカントリー・ソングでよく歌われるテーマと結びつけて書いたんだ。それから曲の終わりでの男の行為は、自殺か、または復讐を思わせるような内容になっている。それをカントリーのデュエットのように、ふたりがお互いに対して腹を立てている内容にしたんだ。ロレッタ・リンが曲の中で夫と喧嘩しているような感じでね。この曲はカントリー・ソングなんだけど、エレクトリック・ドラムがあり、シンセサイザーがあって、カントリー・ソングでは俺がこれまでに使ったこともないような楽器の構成になっている。そのおかげで新境地に行けた曲でもあったんだ」

10)アル・カポネからドヴォルザークの曲を買ってカバー??
このアルバムの最後でなんとジャックがドヴォルザーグの“Humoresques”をカバーしていて、ジャック史上最高と言える美しさになっている。涙が溢れそうになる。それがこの荒れ狂うようなアルバムの最後にぴったりなのだ。しかしこの曲を演奏するきっかけになったのは、なんとアル・カポネなのだ!!

「これはクレイジーな物語があって、もともとは楽譜をオークションで買ったんだ。その説明書きが、『アル・カポネがアルカトラズ刑務所にいる時に手書きで書いた楽譜“Humoresques”』だったんだよね。それで俺はその曲が何か知らないまま楽譜を買ったんだ。それでインターネットで調べたんだけど、歌詞についてよく分からなくて、アル・カポネが書いた歌詞なのかどうか結局分からなかった。それでその楽譜を買ってNYに持って行き、何人かのミュージシャンに弾いて欲しいとお願いしたんだ。それで演奏してもらっていたら、スタジオのマネージャーが、『なぜドヴォルザークを演奏しているの?』と言うから、『えっ、どういう意味?』と訊いたら、『これは、ドヴォルザークのクラッシックで、“Humoresuqes”でしょ』と言うんだ。それで、『ええ、マジか。知らなかったよ』と言ってね。それで歌詞はどうなんだ?と言ったら、クラッシックだから元々はなかったはず、と言われて、それではやっぱりアル・カポネが自分で書いたんだろうか?とかって永遠謎を解くのに時間がかかったんだ。1か月くらいかかってやっと、1930年代の音楽プロデューサーがたくさんの作詞家を雇い、ドヴォルザークの“Humoresques”に歌詞を付けようとした、と分かったんだ。だけどそれは譜面でしか残っていなくて、レコードとして発売されていなかった。だからアル・カポネが恐らく大好きで、曲を覚えていて、アルカトラスで書き記したのか、または最初から楽譜を持っていたのかだと思う。彼はアルカトロスにいる時にバンドを持っていたくらいで、マシンガン・ケリーがドラマーだった。アル・カポネはテナー・バンジョーを弾いていたんだ。このすべてが本当に素晴らしい物語だと思ったんだよね。それが“Humoresque”がこのアルバムに辿り着いた物語だったんだ(笑)」

ジャックのこの衝撃の新作『ボーディング・ハウス・リーチ』は3月23日発売! 必聴。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/jackwhite/discography/SICP-31143
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