セカンド・アルバム『Go To School』で、ミュージカルに大胆に挑戦したレモン・ツイッグス!! アルバムの発売日にお披露目ライブがブルックリンで行われたのだが、なんと新作をほぼ全曲1曲目から最後まで演奏するライブだった。
始まりの4曲は"Foolin' Around"、”Why Didn't You Say That"、”I Wanna Prove You”、”Hi+Lo”とすでに発表された曲で盛り上げてから、「ここからは新作から演奏します」と言って、1曲目”Never in My Arms, Always in My Hearts"から順番に、”If You Give Enough”までやって、アンコールで、”These Words”と、”Tailor Made"、”As Long As We're Together"で締めくくった。
実は今週アメリカのTV番組にも出演して新作から"The Fire”と、”Small Victores”をライブ演奏した。映像はこちら。
観てもらえば分かる通り、バンドメンバーの入れ替えがあり、現在は計5人になった。大きいのは、ドラムが加わったこと。私が最初に観た時は、ダダリオ兄弟が2人ともドラムが叩けるということもあり、交代で叩いていてめちゃくちゃ忙しそうだった。ドラムがいると、やはり2人がギターとボーカルに集中できるので全体のクオリティもしっかりと上がっていた。あのガチャガチャしたライブはあれで良かったところもあったけど。
ライブはアルバムの発売日で、このアルバムのタイトルが『Go To School』だったため、なんとスクールバスが会場の前に停まっていてそれがポップアップストアとなり、そこで2人がサイン会をやっていたのも良いアイディアだった。
このアルバムは、なんとチンパンジーが主人公のミュージカルだ。人間の両親に育てられたショーンが、学校に行き、いじめにあって、自分が人間ではないことに気付く悲しい物語なのだ。物語のみならず、この作品は、全体の作りも非常に複雑なのに、実家の地下でレコーディングし、自分達でプロデュース、ミックスも、ストリングスのアレンジまでやってしまったところに彼らの素晴らしさがある。野心のみならず、それを形にしてしまうずば抜けた知識、能力があるのだ。またチンパンジーの父親は彼らが作品をよく比較されていたトッド・ラングレンがやっていて、母親役は、彼らの実の母。実の父もナレーターとして参加しているし、ビッグ・スターのジョディ・スティーヴンスが参加している。
この物語をライブではどのように形にするのかと思ったら、やはり1曲目から順番にやった方が辻褄が合うし、流れも良い。お兄ちゃん(ライブ映像では右)は、常に冷静沈着でジェントルな感じだが、弟(左)は、やはりバンドの起爆剤的な動きを見せ、どうにもこうにも収まらない何かを常に爆発させていた。しかしさすが兄弟でハーモニーをすると美しく、また2人で並んで弾くギター演奏にも聴き入ってしまった。マイケルが「ロックンロールは死んじゃいねー!」とアンコールで出て来た時に言ったのもカッコ良かった。19歳、21歳とまだまだ始まったばかりの人生で、頭が良く、彼特有のビジョンがあり、それを形にする実力と、可能性を持つ2人に今後も期待大だ。最近若手バンドのクラッシック・ロックがブームとも言えるが、割と直球な解釈に聴こえるバンドが多い中、彼らの場合はその感性が圧倒的にMGMT以降だと思えるところが、そのサウンドを今のものにしていると思う。
インタビューもして最新号に掲載しているが、ページの関係で掲載できなかった部分を少しご紹介。
●『Go to Schoo』というタイトルについて。
マイケル「このアルバムで描いた学校は実在するわけではなく、シュールリアルな僕らの考えた学校だ。つまり、現実をすごく婉曲させた奇妙な学校ということになる。だけど面白いのは、今、現実世界の学校の方がどんどん婉曲した場所になってしまっていること。このアルバムでは、究極的には、学校における『自分対世界』というメンタリティーの象徴を描いている。少なくとも、僕は学校では常にそんな心境だったからね。でも、そんな風に感じてる人多いんじゃないのかな。みんな学校の先生は年取ってるだけで、自分よりバカだと思ってると思うしね(笑)。それから、タイトルは気に入っているんだ。色んな風に解釈できるからね。“レモン・ツイッグスが学校に行く!”という風にも解釈できるし、それから、この言い回しも好きなんだ。“学校へ行って、しっかり勉強しろ!”、大人になれ、という意味でみんな使うからね。キャッチーだと思ったんだ」
●ミュージカルにした意図。
ブライアン「コンセプトを考えた時に、リアリティを感じるけど、すべてがリアリティではないものを目指した。このアルバムには、より広いテーマがあって、魂や精神の崩壊を描きたかったんだ。それってどんな状況にでも置き換えられる普遍的なものだからね。それをすごく意識した。だからこそ、今起きていることをヘビーに扱いすぎないように気を付けたんだ。半分はファンタジーで、半分はリアリティにしたかったから。それは、僕個人がそういうアートが好きだからってだけでもあるんだけど。だから、初期の段階で考えていたのは、例えば『ザ・マペッツ』とかだった。『ザ・マペッツ』は表面的にはあまりにバカげているけど、でもそれでいて人々に何かを感じさせる。そういうのが僕は大好きなんだ。普通は、シニカルに見てしまうようなものでも、自分の普段の考えを捨てて、すごく感動してしまったいるするからね」
●両親の起用について。
マイケル「お母さんは、すごく美しい声なのに、これまでそれを活かした事がなかった。だから今回お母さんに歌ってもらうのは、大事だと思った。それから曲を大事に扱いすぎないのも大事だと思ったんだ。曲によっては、すごくパーソナルというわけでもないからね。例えば、“Rock Dreams”はパーソナルな曲ではなかったからお母さんが歌うのにちょうど良いと思ったんだ。逆に僕が歌うと、あまりにバカっぽくてみんな笑うと思う。でも、お母さんが歌えば、それでもみんなに笑われるとも思うけど、でも、女性だから、もう少し信じてもらえるんじゃないかと思った。それからお父さんは、実際レコーディングを手伝ってくれたんだ。アルバムの終わりの方では、バリトンの声で歌っているしね。すごくたくさん歌ってもらったわけではないけど、でも、お父さんにも参加してもらいたかった。お父さんは既にたくさんの音楽を発表していて、僕から言わせたらどれも完璧な作品ばかりだから、わざわざ僕らの作品で大きな役割を引き受ける必要もないしね」
ザ・レモン・ツイッグスの関連記事は現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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