グラミー賞開催の10日前に職務停止となった新女性会長が提訴!!前会長のレイプ疑惑や不正投票&疑惑マネーの動きなどが明らかに。前会長やグラミー側は否定のコメント

グラミー賞開催の10日前に職務停止となった新女性会長が提訴!!前会長のレイプ疑惑や不正投票&疑惑マネーの動きなどが明らかに。前会長やグラミー側は否定のコメント

アメリカではこの週末1月26日に音楽界最大の祭典、グラミー賞授賞式が行なわれるが、ここにきて内部の不正疑惑が大量に明るみに出ている。NYタイムズ紙が報じている。
https://www.nytimes.com/2020/01/21/arts/music/grammys-deborah-dugan-harassment.html

ことの発端は、「女性アーティストはもっと頑張れ」という問題発言をしたグラミー賞を主催するレコーディング・アカデミー前会長ニール・ポートナウの後任となった初の女性会長デボラ・デューガンが、去年の8月に就任したばかりなのに、グラミー賞からわずか10日前に職務停止となったことに始まる。

その処分を受けて、彼女は雇用機会均等委員会へレコーディング・アカデミーに対する訴訟を提出したのだ。また、その前にはアカデミーの人事部に、アカデミーの不正を書いた書類も提出していた。訴訟を起こした後に、それを彼女の弁護士団が明かしたのだ。弁護団は、彼女がその書類を人事部に提出したことが、今回の処分を受けた理由だと考えている。

人事部に提出された書類には、レコーディング・アカデミーがいかに男性優位で女性差別的な体制なのかが書かれていた。しかもそれだけはでなく、前会長がアーティストをレイプしたという訴えがあったこと、グラミー賞の投票に不正があること、また、非営利団体であるにも関わらず顧問弁護士に不当に高い支払いがされていたこと、さらにはその顧問弁護士から彼女がセクハラを受けていたことまで書かれていた。

これを受けたポートナウはレイプ疑惑を否定。アカデミーも投票の不正を完全否定し、また女性役員達もアカデミーが女性差別的な組織であることを否定するコメントをそれぞれ正式に発表している。
https://deadline.com/2020/01/neil-portnow-responds-rape-allegation-recording-academy-1202837900/
https://pitchfork.com/news/grammys-deny-claims-of-nomination-voting-corruption-no-exceptions/
https://variety.com/2020/music/news/recording-academy-women-statement-letter-1203476356/

デューガンがこの訴訟に踏み切ったのは、去年の11月に前会長の元で働いていた女性役員に彼女のほうがパワハラで訴えられていたから、というのがアカデミー側の言い分だ。また、辞職するために2200万ドル(約24億円)という高額の支払いを要求した、とも発表している。

デューガンが訴えたことを要約。

1)アカデミーの体制が男性優位組織であること。女性の雇用が異様に少ない(→わずか20%)。

2)前会長のポートナウが辞職した本当の理由は、彼が海外の女性アーティストからレイプで告訴されたためだった。そのことが、就任前の自分には知らされていなかった。

3)しかし役員会からは、辞職したポートナウを顧問として迎え、75万ドル(約8250万円)を支払うように要請された。デューガンはそれを断っている。

4)自分に支払われる額が、前に同じ会長職に就いた男性達より格段に安かった。

5)投票システムが不透明、かつ不正がある。
グラミー賞のノミネーションは、12,000人の会員による投票で決められ、その結果の順位を元に各カテゴリーが20人にしぼられる。しかし、その先は不透明で、限られた役員会が決めるそう。

そのため、会員投票では上位に入っていなくても、場合によっては20位以下でも、役員が関係しているアーティストであればノミネートされる可能性がある。

また、長年グラミー賞の放送を手がけているプロデューサーのKen Ehrlichが、番組にとっておいしいアーティストを選ぶなど不正操作があったという。そのせいで、例えば去年の楽曲賞ではエド・シーランアリアナ・グランデが外された。ジャズのカテゴリーでも不正があった。

ちなみにEhrlichは、アルバム賞にノミネートされていたのに、ノミネートされていた中で唯一の女性だったロードだけが放送中にソロで歌わせてもらえなかったことがあった際、「全員が歌う時間はないから」と答えた人物だ。

6)不当な金の動き
アカデミーは非営利団体であるにも関わらず、元役員であり、現在はアカデミーの顧問弁護士でもあるジョエル・カッツの事務所にこの4年間で1030万ドル(約11.3億円)を支払っていた。

7)その顧問弁護士からのセクハラ
カッツの事務所への支払いが高額であることから、デューガンは経費を節約するために外部ではなく社内の弁護士を雇いたいと考えていた。しかし就任してすぐの役員会の前にカッツに呼ばれてディナーに行くと、彼は尋常でないほどに高いワインを開け、彼女に「かわいい」と言った後に、無理矢理キスしようとしたらしい。のちにインタビューに答え、「誰が権力を持っているのか、見せ付けようとしていた」とも語っていた。

とりあえず彼女の訴えは以上だ。

グラミー賞は長年、時代遅れであることや、ヒップホップ、黒人アーティスト、女性を極端に過小評価することが問題視されてきた。
https://www.npr.org/2019/02/12/693633206/the-grammys-dont-have-a-hip-hop-problem-the-grammys-have-a-grammy-problem
https://www.nytimes.com/2019/02/07/arts/music/grammy-awards-diversity.html

また、去年アリアナ・グランデやエド・シーランが外されたのは故意によるものだと、メディアは書き立てていた。ビヨンセが『レモネード』で作品賞を獲れず、代わりに受賞したアデルがビヨンセに対して申し訳なさそうにしている可哀想な場面が、いまでも痛々しく記憶に残っている。


ケンドリック・ラマーが一度もアルバム賞を受賞せずに、代わりにピューリッツァー賞を受賞した時の嬉しさったらなかったし、ドレイクフランク・オーシャンもグラミー賞に反発を示してきた。また、P!NKをはじめ多くの女性アーティストたちが抗議した年もある。

実際どちらの言い分が正しいのかは分からないが、長年誰の目にも明らかな差別が存在したきたことは確かなので、今回彼女が明るみにした話は、むしろこれまでの結果と辻褄が合って説得力がある。

現時点では沈黙しているミュージシャンも多いが、シェリル・クロウやチャックDが支援のコメントを発表している。パブリック・エナミーは、これまで一度もグラミー賞を受賞したことがないが、デューガンが今回彼らに特別功労賞生涯業績賞を贈ることを決定していた。


チャックDのコメントの要約。
「デボラ・デューガンの真実と効果的な変化を起こそうと努力する勇気に敬意を評する。いつものように、無知でテストステロンに刺激された白人オヤジ達が、前進を止めて、台無しにしようとしているんだと思うから。昔と同じクソだよ。現状をキープしておきたいんだ。ヒップホップみたいな音楽は、彼らにとってクソのままにしておきたんだ。

1989年に俺たちはグラミー賞をプロテストした。なぜなら、彼らがヒップホップ/ラップという新しいアートフォームを認識しなかったからだ。だから俺は歌詞でそれに応答した。『グラミーなんて誰が気にするか?』と。認識され、物事が変化するように闘ったんだ。他の人達が入ってこれるように、扉を蹴りあげたんだ」

この後、一度もグラミー賞を受賞したことがないパブリック・エナミーが功労賞を受賞することに関して、デューガンが内部で苦労していたのは明らかだったことや、自分達にとっても相応しい形にしたかったことなどを語っている。

そして最後に、「まだ新しい人達に言っておきたいのは、これは昔からあるパターンで変わっていかないんだ。だから、デボラ・デューガンが辞めると聞いても驚かないよ。ただ愕然とするだけだ。昔からのいい加減な異臭が漂っているだけだから」と。

現在、グラミー賞に限らず、白人男性が権力をひけらかすことが数々の問題を引き起こしている。例えば、オスカーにも女性監督はノミネートされなかったし、俳優部門の大半が白人であることは大批判されている。さらに、アメリカ大統領は権力を乱用したと弾劾裁判を受けることになっているし、またハーヴェイ・ワインスタインは、権力を使って弱い立場にある女性を次々にレイプしたという疑惑で今裁判が行なわれている。

現在発売中の『CUT』に掲載しているが、スコセッシが『アイリッシュマン』についてのインタビューで、「権力を保持し続けるためなら、人は何だってする」と言っていたのが忘れられない。「それは金ですらないんだ」と。白人オヤジ達が「法の上にいると勘違いして」権力を保持し続けているからこその結果が、今様々な場所で人類の進歩の障害になっている。

アカデミーの会長に任命されるより前、デューガンはEMIとディズニーに務めていたが、そこではこのような問題にはなっていない。また最近では、ボノが創設したチャリティー団体「(RED)」で8年間CEOを務めている。彼女がレコーディング・アカデミーに対してこれだけの改革をしようと努力したことについて、「ボノと8年間も一緒にいたせいかもしれない。彼がずっと『不可能は可能なんだ』と言い続けるのを聞いてきたから」と言っていたのが興味深かった。

こんないや〜な空気のままで、数日後のグラミー賞はどうなるんだろうと思ってしまう。今年は、これまでの批判を容れて、ユースと女性が大半の部門にノミネートされているので、今回の問題発覚は残念で仕方がない。白人オヤジを気にしない彼らが、スピーチで何か良いこと言ってくれるかもしれない。

リゾにビリー・アイリッシュ、ロザリア、アリアナ・グランデなど今のメインストリームを引っ張る女性アーティストがパフォーマンスすることになっている他、タイラー・ザ・クリエイターも楽しみだし、BTSとリル・ナズ・Xの共演も決まっている。


どんよりした気持ちだが、日本での放送はこちらから。
https://www.wowow.co.jp/music/grammy/
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする
フォローする