祈・再来日。ツアー記念BOX『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン 2015』に悶絶する

祈・再来日。ツアー記念BOX『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン 2015』に悶絶する

ああ、なんでこれを聴いてしまったんだ自分は。

いや断っておくが、この『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン 2015』の内容に失望したわけではない。まったく逆だ。タイトル通り、キング・クリムゾンのライヴバンドとしての凄味を巧みに抽出した今作を聴いたことによって、追加公演含め6本もあった東京公演のみならず大阪2公演・高松・名古屋までことごとく参加不可能だった筆者自身の不運ぶりに思い至って、改めて地団駄踏まざるを得なかったからだ。

昨年の『キング・クリムゾン エレメンツ~2014オフィシャル・ツアー・マーチャンダイズ』に続く、クリムゾンUSツアー開始に合わせて制作された限定ボックスセット第2弾となる『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン 2015』。ロバート・フリップの懐刀的存在:スティーヴン・ウィルソンによる“エピタフ”最新ミックス(インスト)、“太陽と戦慄パート2”の最新ラインナップによるリハーサル音源、“太陽と戦慄パートIV/ザ・コンストラクション・オブ・ライト”制作時のセッション……といった初CD化音源を含め、別テイクやライヴ音源などを前作同様たっぷり収録。そして何より、今作がはっきりと突きつけてくるのは、1969年のデビューから2015年に至るまでのクリムゾンの歴史が初めてライヴという形を通して惑星直列を果たした実感そのものだ。

1st『クリムゾン・キングの宮殿』をはじめとする過去作品を幾度となくリマスター発売してきたロバート・フリップだが、ことライヴのセットリストに関して言えば、我々が体験できたのは『太陽と戦慄』以降の居合い抜きの如き緊迫感に満ちた音楽世界まで。ドラマチックなデビュー作『宮殿』から4作目『アイランズ』に至るまでの楽曲群からは(少なくともライヴにおいては)我々もバンド自身も分断された状態が続いていた。が、2014年再始動ツアー以降のクリムゾンは明らかに様子が違う。小池宏和さんによる東京公演初日のライヴレポート(http://ro69.jp/live/detail/135453)をご参照いただければ明らかだが、“エピタフ”、“21世紀のスキッツォイド・マン”、“クリムゾン・キングの宮殿”など惜しみなく披露した初期曲から“レヴェル5”まで、プログレッシヴ・ロックそのものを体現してきたバンドの歴史が、ひとつの軸で貫かれているのだ。

かつてクリムゾン同窓会的バンド「21stセンチュリー・スキッツォイド・バンド」にも参加していた初期メンバー=メル・コリンズと、そこでヴォーカル&ギターを担当していたジャッコ・ジャクスジク。途中出入りはありつつも80年代以降ベースを担っているトニー・レヴィン。『ヴルーム』以降のリズムを支えるパット・マステロットとギャヴィン・ハリソン&ビル・リーフリンによるトリプル・ドラム……デビュー以来実に46年に及ぶ多彩な楽曲世界をひとつのパースに描ききるという偉業は取りも直さず、今回のクリムゾン史横断的なラインナップだからこそ実現できたものだ。そして、その融通無碍なラインナップを形成したのは他でもない、結成から唯一クリムゾンのメンバーであり続け今も不動の司令塔として君臨する、ロバート・フリップの意志そのものだ。

というわけで、今作を聴くことで少しは「クリムゾン来日レス」のショックも癒えるかと思ったが、かえって傷は深まるばかりだった。前回の来日から実に12年の間、クリムゾン来日をそれこそハレー彗星の周期くらい途方もなく遠くに感じていたが、計10公演にわたって彼らを迎え撃った日本のファンの熱気を受けてすぐさま再来日──なんていうことも、あらゆるリミッター外れた今のクリムゾンならありそうな気がする。いや、あってくれ。と虚空に願いつつ、『ジ・エレメンツ~』を手に「次」を待つことにする。(高橋智樹)
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