“未来の破片”“君という花”といったシングル曲はもちろん、“フラッシュバック”も“夏の日、残像”も“無限グライダー”も“E”も、スリリングなくらいにエモーショナルな爆発力だけでなく、ギターロックの黄金律を真っ直ぐ撃ち抜くシビアな批評性に満ちている。僕自身、当時『ROCKIN’ON JAPAN』編集部の初代アジカン担当として、またナンバーガール(2002年)/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(2003年)の相次ぐ解散直後の「ナンバーガールロス」「ミッシェルロス」を拭い難く引きずったひとりのロックファンとして、『君繋ファイブエム』の登場をロックの福音そのもののように感じていたことを、つい最近のように思い出す。
シングル『未来の破片』(2003年8月)のタイミングで初めてゴッチに単独インタヴューした時、彼の表情に滲んでいたのは期待感や充実感ではなく切迫感だったし、ゴッチ自身も後にその誌面の自分の姿を見て「死んだ魚の目をしてる」と話していた。それはひとえに、彼らがアジカンのロックを快楽原則によってではなく、日々の苦悩と軋轢、ロックを背負うことの畏れと覚悟から生み出そうとしていたからに他ならない。そして、そんな想いを高純度結晶させたアルバム『君繋ファイブエム』の取材では一転、ゴッチは「俺らもちゃんと闘いたいですよね、ど真ん中で」と時代のバトンを受け継ぐ決意を語っていた。アジカン史上最大級に衝動的なロックアルバムはしかし、野性やルサンチマンの暴発の結果ではなく、紛れもない「時代を拓く意志」によって生まれていた――ということが、結成20周年を迎えた今改めて聴くとよくわかる。(高橋智樹)
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なお、過去に掲載されたディスクレヴューは以下の通り。
『崩壊アンプリファー』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/141978