2016年7月27日(水)に15thアルバム『醒めない』をリリースするスピッツ。
RO69ではリリースを記念して、これまでの全アルバムを振り返るディスクレビュー特集を行います。
『醒めない』リリースまで、1日1作品ずつレビューを掲載します。
本日の作品は1991年発表の1st『スピッツ』です。
私がロッキング・オン・ジャパンに在籍した2年ちょっとの間で最も印象深かった出来事が、95年のスピッツ特集だった。当時の編集部は、テクノ、ゴス、下北系、そして私はパンクと、各自の音楽の趣味嗜好はまるっきりバラバラだったが、このスピッツ特集時のみ、あり得ないほど一致団結できたのだ。全員が、掛け値なしに大好きだと語れるバンド。そんなバンドは、当時マジでスピッツしか存在しなかった。雑誌が仕上がった時、妙な多幸感があったことを思い出す。
スピッツがライブハウスに登場した時、彼らは一瞬パンクバンドだったが、すぐに現在の路線へと移行した。90年にインディーズ1stミニアルバム『ヒバリのこころ』を、新宿ロフト系列のミストラルからリリースした頃は、確かネオアコースティックという括りでBLワルツやグランドファーザースと共に語られる存在になっていた。スピッツはしかし、私の周りのいかついパンクスからも相変わらず好かれていた。むしろパンク時代よりも好かれていた。何故だったのか。一見透明なようでいて所々に潜む澱のような毒やエロさが惹き付けるのか。一見マトモなようでいて突っ込みどころ過多なその天然ぶりが愛さずにはいられない悶絶を引き起こすのか。いや、それらを踏まえて、実は女性よりも余程ナイーブだったりする複雑な男心を、女性にも男性にも自然な形で受けとめられるよう表現することに、結果的に長けていたからではないかと今は思う。91年発表のデビューアルバムとなる本作『スピッツ』は、正直あまり売れなかったが、それは毒やエロさの表現がまだちょっとダイレクトだったからかもしれない。本質的には現在と同一であるし、先の“ヒバリのこころ”や“うめぼし”といった永遠の名曲も多い。まだ固く青々とした、むきだしのスピッツの本質。そうした魅力が堪能できる作品だ。(中込智子)
なお、スピッツは2016年7月30日(土)発売『ROCKIN'ON JAPAN 9月号』の表紙に登場します。
お楽しみに!
スピッツ全アルバムレビュー 1st『スピッツ』【『醒めない』リリース記念】
2016.07.12 18:00