カサビアン、4年ぶりの新曲“ALYGATYR”を聴いただろうか。ブリブリ歪んだベースラインとぶっといバスドラでフロアを揺らす音像を確実に構築しつつ、曲中で煽情的に盛り上がりのピークを幾度も更新していく、その不敵なソングライティングの力量をまざまざと見せつけるような楽曲。
大胆にエレクトロ・パンクに寄った『48:13』とその反動のようにスタジアム・ロックへと揺り戻った『フォー・クライング・アウト・ラウド』、そんな直近2作の中間地点を突き刺すようなこの新たなアンセムは、カサビアンの帰還を告げる号砲として非の打ち所がないものであった。
2021年10月~11月に17公演を実施したUKツアーではソールドアウトを連発し、また次の5月~7月にもフェスやリアム・ギャラガーのネブワース公演への出演を控えるなど、明らかに活動を活発化させているカサビアン。もちろん、2020年のまさかのトム・ミーガン脱退の影響、あれほどのカリスマを有した男の穴を埋めることなどできようもない。しかし、これまでバンドの「ふたつの声」のひとつであったサージ・ピッツォーノがフロントマンを担ったことは、少なくともカサビアンを「別のバンド」に変えてしまわない唯一にして最善の方法であったはず。
さらに、驚かされたのは先のツアーでギター/バッキング・ボーカルとしてザ・ミュージックのロブ・ハーヴェイを招いたこと。ZEPPやザ・ストーン・ローゼズの系譜を継ぎバンド演奏の極点を追求したザ・ミュージックと、プライマル・スクリームの影響色濃いエクレクティックなビート・ミュージックの鬼子としてシーンに登場したカサビアンとの合流は、英国におけるグルーヴ一族の他宗派混血のようなもの。彼らの声と演奏の重なりに早速新たなケミストリーが生まれている様は、ファン撮影の直近のライブ動画からも確認できる。
こうしたクレバーにして大胆な選択を下すことができるバンドであれば、このかつてない困難も必ず乗り越えていけるはず。カサビアンの滾る炎は、まだまだ灯りを弱めていない。 (長瀬昇)
カサビアンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。